[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今週ピックアップする作品は明日公開の映画、園子温監督の『ヒミズ』。主演の染谷将太と二階堂ふみがヴェネチア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人賞)を受賞して話題になった作品です。
原作は古谷実の同名漫画で、オリジナル作品を発表してきた園監督にしては珍しく原作ものの映画化ですが、この作品の撮影準備期間中に東日本大震災が起こり、内容を変更することになったのは有名な話。
「震災後に、何もなかったように映画を撮り続けることはできなかった。どんなことをしても震災を作品に取り込まなければと思ったのです」と語る監督。日本全体を揺るがす震災というのが、監督の心を大きく動かしたのでしょう。
結果、監督は、「震災後の日本」を舞台にするという大きな決断をし、脚本を書き直し、周囲の反対を押し切って被災地の映像を作品に入れることにしたのです。
「日本は海外に比べて、現在進行形の問題を映画化することに慣れていないんですよね。自分も不安はありましたが、どう思われようと絶対にやらないといけない! と思ったんです」
確かにマーク・ザッカーバーグはまだピンピンしているけれど『ソーシャル・ネットワーク』で辛辣に描かれ、エリザベス女王を描いた『クイーン』、マイケル・ムーアを始めとするドキュメンタリーなど、存命の権力者や皇族、社会問題も厳しい目線で映画化する洋画に比べ、日本映画は少々及び腰な感じ。
最近では原発の恐ろしさを少女目線で描いた作品があり、かつてドキュメンタリーでオウム事件を扱った森達也監督の『A』もあるけど、現在もまだ解決していない問題に関してはリスキーと判断され難しいのが現実です。
そこに切り込んでいく園監督はこの作品で、被災地(場所は特定していない)で生きる若者たちの日常を描きました。
主人公の少年の住田(染谷将太)は震災前から過酷な家庭環境に置かれており、震災後は普通に平凡に生きることさえままならない状況に陥ります。
実の親にボコボコに傷つけられ、それでも、もがきながら「普通に生きたい」と叫ぶ姿は、なんとか生き抜いて! と目が離せません。そんな彼のことが好きでたまらない少女の茶沢(二階堂ふみ)も最悪の家庭環境におびえて生き、少年の存在が心の支え。振り向いてくれない住田に体当たりでぶつかっていく彼女のエネルギーは圧倒的です。
ヴェネチア国際映画祭で、審査委員長のダーレン・アロノフスキー監督に「染谷と二階堂の演技は、情熱と感情ではちきれんばかりで、青春がスクリーンで爆発しているようだった」と絶賛されたのも納得!
それもそのはず住田と茶沢のプラトニックだけど情熱的な恋(ていうか茶沢が一方的に燃えているんだけど)は、うらやましいほどストレート! 記者はふたりのラストシーン、感極まって泣いちゃいましたよ……。「がんばれ」って言葉が、これほど胸に響く作品はほかにありません。『ヒミズ』、いまこそ見るべき映画だと思います!
(映画ライター=斎藤香)
『ヒミズ』
1月14日公開
監督:園子温
出演:染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、吹越満、神楽坂めぐみ、光石研、渡辺真知子、黒沢あすか、でんでん、村上淳、窪塚洋介、吉高由里子、西島隆弘(AAA)、鈴木杏
(C)「ヒミズ」フィルムパートナーズ
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