【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、蜷川実花監督の最新作『人間失格 太宰治と3人の女たち』(2019年9月13日公開)です。今年の7月に『Diner ダイナー』が公開され、まだ2ケ月しかたってないのに、もう最新作の公開とは! 蜷川監督、映画への情熱がハンパありませんね!

本作は太宰治の女性関係にスポットを当てながら、太宰という人物を掘り下げていく作品になっています。では物語からいってみましょう。

【物語】

1946年、人気作家として活躍していた太宰治(小栗旬)はスキャンダルが多い人でした。小説のために愛人と心中未遂するなど、妻・美知子(宮沢りえ)と子供がいながらも奔放な私生活を送っていたのです。ある日、太宰のファンだった上流階級の娘・静子(沢尻エリカ)と出会った太宰はその美しさのトリコに。やがて体の関係になり、静子は彼の子を身ごもります。一方、太宰は美容師の富栄との関係も深めていきますが、富栄の狂気の愛が、どんどん太宰の人生を束縛していくのです。

【蜷川監督が小栗旬を太宰治に抜擢】

小栗旬が太宰治を演じることが決まったときは驚きました。彼を抜擢したのは蜷川実花監督。「太宰を演じられるのは小栗旬しかいない」と思ったそうですが、個人的には「なんで小栗旬?」と。太宰は華奢な体の繊細な文学青年風のイメージだったので、異色のキャスティングという印象だったのです。ところが、映画を観たら、小栗旬=太宰治、大アリでした!


太宰を愛している女性たちの目線で彼を描いているので、太宰はかっこよくないと説得力がないわけです。蜷川実花監督ですから、ヴィジュアルにはこだわるでしょう。監督の求める太宰像にピタリとはまったのが小栗旬さんなのです。

【エンタメの世界で生きる太宰】

で、小栗旬さんの太宰治、良かったです。私は太宰にネガティブな男というイメージを抱いていたのですが、小栗さんが演じる太宰を観て「意外とこういう明るさと豪快さがあった人なのでは……」と思いました。彼の陽の一面が描かれており、そういう意味でも本作は軽やかで見やすい太宰治映画ではないでしょうか。難点は、太宰治の作家性が見えないこと。劇中、執筆はしていましたが、彼の創作過程における生みの苦しみまでは深く見られなかったことが少し残念でした。太宰と3人の女たちの愛に焦点を絞ったからなのでしょうが、本作では純文学ではなく、エンタメ界に生きる太宰治でした。

【3人の女たちの生き様に引き寄せられる】

その太宰を愛する3人の女たち、妻の美知子(宮沢りえ)、上流階級の愛人・太田静子(沢尻エリカ)、最後の女・山崎富栄(二階堂ふみ)、彼女たちも三者三様で良かったですね~。

浮気に気づかないふりをして、表向きは穏やかに生きるメンタル最強の妻・美知子。太宰の代表作「斜陽」のきっかけになった日記を書き、彼の子を認知させた粘り勝ちの女・静子。狂ったように太宰を愛し、彼と心中した富栄。てっきり女性にだらしがない太宰が彼女たちをもて遊んだのかと思ったら、意外と太宰が3人に振り回されており、特に静子の堂々たる愛人っぷりと、富栄の太宰への執着心の強さが濃厚で良かったです。

彼女たちが太宰にぶつけるパワーが凄いので、逆に太宰がどんどん腰が引けていくというところに彼の滑稽さがよく表れていました。なんだかんだと逃げたりしていましたが、結局、最後の女・富栄には押し切られてしまったから、心中という結末になったのでしょう。

もしかして「太宰治の本、読んだことないし」とか「あまり知らないし」という人もいるかもしれませんが、本作は太宰治を知らない人でもOK。彼を愛する女性視点で描かれているのでラブストーリーとしても見られるし、とにかくわかりやすくてオススメです! これをきっかけに太宰治の小説を読むのもありだと思いますよ。

執筆=斎藤 香 (C)Pouch

人間失格 太宰治と3人の女たち
(2019年9月13日より、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー)
監督:蜷川実花
出演:小栗旬、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみ、稲垣来泉、山谷花純、片山友希、宮下かな子、山本浩司、壇蜜、木下隆行、近藤芳正、成田 凌、千葉雄大、瀬戸康史、高良健吾、 藤原竜也
©2019「人間失格」製作委員会

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