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【映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します】

今回ピックアップする映画は、ファッション業界などからも注目を集めているドキュメンタリー『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』(公開中)です。

ハーパーズ・バザーの編集者、ヴォーグの編集長を務め、革新的なヴィジュアルセンスとブームを作り出すファッション・プロデューサーの才能で、20世紀のファッション界のトップに君臨した伝説の女性ダイアナ・ヴリーランド(1903~1989)の人生を本人&周辺の人々のインタビューと彼女の手掛けたファッション誌と写真などで構成した作品です。

パリで生まれた彼女は、そこで幼い頃からファッションのエキスを浴びて育ちました。「恵まれて育ったセレブかな」と思ったら、彼女は母親からひどいことを言われてきたのです。美人ではなかった彼女を、母親はずっと「小さな醜いモンスター」と呼んでいたのです! 普通ならへこんで、自分に自信を無くしてしまいそうですが、彼女が凄いのはそれを生きるバネにしたことです。まさに反骨精神! そりゃ悲しんだでしょうが、ダイアナは、美しくないからこそ、ファッションを自分に取り込み、美しく魅せる術とオリジナリティを確立していきました。この映画に次々登場する若い頃の彼女を見ればわかります。彼女はとても力強くかつエレガント!

記者は、ダイアナの前向きな精神に圧倒されましたよ。コンプレックスをはねのけて、人が自分の美醜をどうこう言おうと自分の道を邁進していく。パリ、アメリカ、ロンドンと彼女は生活の拠点を移していきますが、どこでもスタンスは一緒です。そしてシャネルを個性的に着こなしていた彼女は、ハーパーズ・バザーのコラムニストにスカウトされるのです。このコラムのタイトルは「なぜやらないの?(Why don’t you?)」これは彼女のポジティブな人生を表したキャッチーなタイトルでしょう。

美人ではない場合、この世の中やはり自分を美しく魅せるための努力も必要です。「美に匹敵できるのは強烈なパーソナリティ」というのが彼女のポリシーで、それを体現してきました。ついついヴォーグの編集長アナ・ウインターのドキュメンタリー『ファッションが教えてくれること』と比べてしまいますが、あの映画はアナ・ウインターのいまを追いかけたもの。これはダイアナの人生を丸ごと映し出した映画です。ただファッションを見る目、編集長としての厳しさは同類ですね。

ダイアナもアナも、周囲の人のインタビューでの印象が一緒です。「怖い」「厳しい」。アナは『プラダを着た悪魔』の鬼編集長のモデルと言われていますが、ダイアナもオードリー・ヘップバーン主演作『パリの恋人』に登場する鬼編集長のモデルと言われています。やっぱりトップに登りつめる人には妥協がないですね。

ファッションブームを作り出すダイアナは、大女優のローレン・バコール、バーブラ・ストライサンド、歌手のシェールを見出し、またマノロ・ブラニクに靴のデザインをすすめたのも彼女だったのです。す……すごい。

ダイアナは、仕事で日本をたびたび訪れ、こう言ったそうです。

「日本人はすごいわ、神は彼らに、石油もダイヤも金も与えなかった。でもスタイルを与えた」

東洋人は堀の深い顔、青い瞳、ブロンドの髪も持たないけど、パーソナリティを前面に出して、オリジナリティあるスタイルを創り出すことができるのです。「そっか!」と、記者などかなり前向きな気持ちになりましたよ。ほか、ダイアナは生きる上で、かつ、人生を楽しむ上で大切なことをたくさんコメントしています。まさに名言!と言える言葉多数。

『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』は、ファッション界の女帝の人生を見るとともに、コンプレックスをバネにすること、自信を持って生きることが大切なのだと知ることができます。「ダイアナのパワーをあびて、力強く生きていけそう!」そんな気持ちになれる映画です。

(映画ライター=斎藤 香
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『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』 公開中
監督:リサ・インモルディーノ・ヴリーランド
共同監督:ベント・ヨルゲン・ペルムット、フレデリック・チェン
出演:ダイアナ・ヴリーランド
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