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スポーツは時として、観るものに大きな力を与えてくれます。目標に向かって努力する、困難な時にも諦めない。木っ端ライターの自分でさえ、いいスポーツの試合を見たときなど、生まれ変わったような心地良い気分になるというものです。

今回ご紹介するのは、かつて日本の小野伸二選手が所属したことでも知られるオランダのサッカーチーム、フェイエノールトを舞台とした心あたたまるお話です。

オランダ・ロッテルダムの人気サッカーチーム、フェイエノールト。そのサポーターたちはチーム愛が非常に強いことで有名であり、新シーズンの初練習日には本拠地の「デ・カイプ」(スタジアム)に集結して初応援をする、というのが習わしです。

この6月の初練習日、そんなファンたちの中に、54歳のオランダ人、ローイエ・マークさんがいました。ただ……彼の身体は末期のがんに蝕まれており、余命はもはや数日。すでに立つこともままならない状態です。それでも、旅立つ前にしっかりと愛するチームの姿を目に焼き付けておきたい。フェイエノールトはそんなローイエさんのために、スタジアムのダグアウトを開け、可能な限り間近で練習を見られるようにしてくれたのでした。

選手たちが入場、サポーターたちは大歓声! 発煙筒をガンガンに焚く、ヨーロッパならではの応援風景がそこにありました。マークさんもその高揚感につられて、思わず担架から起き上がる……次の瞬間!

なんと、マークさんの姿が描かれた大きな大きな横断幕がスタンドに! サポーターたちが応援していたのはフェイエノールトの選手たち、そして、愛すべき仲間・マークさんその人だったのです。発煙筒のカラーも、マークさんが好きなグリーンで統一されています。

続いて、スタジアム内に響き渡る歌声。それはフェイエノールトの応援歌ではなく、イギリス・リヴァプールの応援歌として名高い「You’ll Never Walk Alone(もう君は独りぼっちじゃない)」でした。それも、2回。これからも俺たちがついているよ、と……。

何が起こっているかを悟り、感極まったマークさん。余命数日、意識さえ保つのが困難なはずの身体を奮い立たせ、なんと! 助けを借りながらも立ち上がり、スタンドへと向かって歩き始めたのです。これに対して、スタンドにいた全員から一斉に温かい拍手。フェイエノールトの選手たちも全員が駆け寄り、ひとりずつ、マークさんと握手と抱擁を交わすのでした。

これは、マークさんの友人たちの計らいに、フェイエノールトのチームとサポーターたちが賛同し協力して実現させた、彼への最後の素敵なプレゼントでした。このわずか3日後、マークさんはこの美しい思い出を胸に、遠い場所へと旅立っていったということです。

参照元:Supporters Not Customers
(文=纐纈タルコ/翻訳協力=鷹泊千里)

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