10月18日、明治神宮参集殿で世界的なファッションデザイナーの森英恵さんと、そのお孫さんでモデル・タレントの森泉さんが「森英恵、その人生で見たものとは。」をテーマにシンポジウムを行ないました。
主催は、社団法人三世代生活文化研究所。「三世代を『つなぐ』。ファッションによる交流」をテーマに、第一部ではこのシンポジウム、第二部ではおばあちゃん世代のグランマモデルと孫世代のモデルによるファッションショーという構成で行なわれました。
第一部のシンポジウム、「森英恵、その人生で見たものとは。」は森英恵さんのもの作りにかけてきた想いが伝わるものでした。その内容を紹介します!
■女性を美しく見せるための服を女性の私が作りたいと思った
戦後、自分のほしいもの、子どもに着せたいと思うものがなかったということと、手で作ることに興味があったことからデザイナーを始めた森英恵さん。次第に映画に衣装提供ができるほどに実力がついてきて、1965年に初めて海外に飛び出しました。
向かった先はパリ。オートクチュール全盛期。そこで見たものは、シャネルの作った服の魅力。他のデザイナーは全て男性でシャネルだけが女性だったのでしたが、はっきりとシャネルの服は違うと感じたそうです。
「男性のデザイナーが作った服を着ているのは服が美しく見えたんです。でもシャネルのものは服が光るのではなく、モデルが光る。女が作る女の服は違う。女性を美しく見せるための服を作りたいと思いました」と森英恵さんはいいます。
■日本製の1ドルのシャツを見て、ニューヨークコレクションに出た
パリの経験がすばらしかったので、その興奮が覚めやらぬうちに、森英恵さんはNYに向かいます。近代的な生活を日本にもたらしたアメリカという国はどんな国なんだろうと思ってのこと。
そこで見たのは、アメリカのデパートの1階に売っていた、1ダラーシャツ。1ドルの格安の日本製の粗悪なシャツでした。その百貨店の上の階にはフランス製の上等なステキなシャツが売っているというのに。またオペラでマダムバタフライ(日本が舞台のプッチーニの作品)を見ると下駄を履いたまま畳の上を歩いています。「『これは、おかしいんじゃないか。日本はまったく知られていない。私達はもっと良いものを作る力がある』と思いました」と森英恵さんは言います。そこで、アメリカで売れるものを研究してNYコレクションに出したのです。
■手で作ることのすばらしさを若い人に知ってほしい
NYコレクションは大好評。この成功を受けて、森英恵さんはパリ・コレクションを目指すことになります。しかも、もともと「手で作る」ということが好きでファッションの世界に入ったこともあり、オートクチュールの世界へ。
オートクチュールは高級仕立て服という言葉ですが、通常、パリクチュール組合加盟店で注文により縫製されるオーダーメイド一点物の高級服やその店のことを意味します。このクチュール組合は、いわば国策で守られていて外国人はなかなか入れないところ。そこに、ピエール・カルダン氏やユベール・ド・ジバンシィ氏が協力に推薦してくれたり、トライアルの期間のショーを成功させたりして、東洋人初のデザイナーとして入ることができたのです。
オートクチュールの洋服はミシンを使わず、すべて手縫い。何度も仮縫いを重ねて丁寧な匠のワザによって作られます。またテキスタイル(布)もデザイナーが手がけることがあります。「手で作るということは『古い』と思割れるかもしれないけれど、手でつくることのそのおもしろさ、喜び、大切さ、楽しさを若い人にもっと知ってほしい」と森英恵さんは言います。
■日本の伝統的な奥ゆかしい美しさを伝えたい
また、森英恵さんはフランス人が日本に興味を持っていることを感じ、日本の和の美しさ、伝統的な奥ゆかしさを紹介したいと考えました。
「言葉で多くを語らなくても、ファッションが語ってくれます。日本人として、日本の美意識を理解してくれるように作っていくというのが私の理念です。」
こういった想いをもって、森英恵さんはファッションを作り続けてきたのです。
■手仕事で丁寧に作られた服がもたらすもの
森泉さんは「ママモリ(森英恵さんのこと)が作った服は、フィットしていて着心地が良く、女性が生えることをテーマに作っているので美しい。オートクチュールで丁寧に作られているところを見ると、長く愛用しようという気持ちになります。そのため、ママモリが着て、母が着て、私が着ている洋服もあるんです。」と語り、丁寧に作られた洋服を三世代にわたって着ることによって世代間の交流ができることを説明。
森英恵さんは、「手仕事のすばらしさを感じる服は、ささっと作られた服とは違います。着心地が良いもの、本当に美しいものはジェネレーションには関係がありません。私はアメリカで日本製のチープなものが売られていることに憤慨して海外で仕事を始めました。手仕事で丁寧に作られた服を通して若い世代に日本の美意識や伝統を受け継いでもらいたいと思います」と話しました。
世界的ファッションデザイナー、森英恵さんが語ったもの作りへの想いはシンプルで力強く、手仕事で丁寧に作られた服を大切に着てみたくなりました。
(文、写真=FelixSayaka)
▼二人でトークのお仕事に出るのはこれが初めてとのこと▼
▼2004年に森泉さんがハナエモリのパリコレのショーに出た時の映像も流されました▼
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