natsu-kaze
<朝の短編小説> 20代〜40代女子のリアルな日常をお届けします

———————Vol.1 ヨシミの場合(31才)

ひどい夏風邪にかかって熱が下がらない。会社に連絡を入れ、今日はベッドで過ごすことにした。

何もすることがなくて暇だ。手元のスマホでニュースを斜め読みして、パズルゲームでもしようか。LINEは苦手だ。誰かにかわいいスタンプ送ったりしない。そんな「誰か」は、私にいないから。

お盆も、がんばって帰ったのにな。「よっちゃんまだ結婚しないのお?」なんて言われて。ママと、弟嫁さんが頑張って料理してるキッチンには、なんだか入っていけなくて。

ピョコン、と携帯が鳴った。

「ヨシミちゃ〜ん☆ 最近元気〜? 私チョイ夏バテ気味〜〜〜」

リカコだ。こないだの結婚式は泣けたけど、ご祝儀高かったな。

大学の同期たちのなかでも、私はあんまり、リカコのギャルっぽいノリやファッション、好きじゃなくって。リカコはいつもキラキラしてるし、地味な私なんかと特に連絡とらなくてもいいじゃん、なんて思っちゃって。

でも、暇だったから返信してみる。

「風邪〜? だいじょーぶ? 家、明大前って前言ってたっけ? ウチもウチもー♪」

リカコはポンポンとスタンプを送ってくる。

「ウチもさダンナが熱出しちゃって大変大変www」
「おじやと卵酒作ってたよーククパで調べたwww」

なんだか、少し楽しくなってきちゃった。

「風邪治ったら、3人でホムパしよ☆ダンナ料理上手だからさ!」

思わず、「OK」ってスタンプを探して、送った。間髪いれずに、スタンプが返ってくる。その数、3倍。

「ヨシミちゃん、ほんとお大事にね! 近所なんだから助け合おうぜっ☆」

もう一度「OK」と「バイバイ」を送って、携帯を枕元に置いた。

「ホムパ」かあ、経験ないな。リカコの家の新しいダイニングで、明るいリカコと、クマさんみたいなダンナさんと鍋囲んで、ニラとかお肉とかグツグツ煮るのかな。「スタミナ付けよっ! 夏バテ退散〜!」なんて、きっとリカコは騒ぐだろう。

熱は相変わらず下がらないけど、少しだけ、いつもより楽しい夢が見られるような気がした。

撮影・執筆=川澄萌野