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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは第87回アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞を受賞した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2015年4月10日公開)です。

かつてのスター俳優が落ちぶれて演劇に挑戦し、葛藤しながらも這い上がろうともがく姿を描いた業界内幕ものであり、濃密な人間ドラマでもあります。

【物語】

ヒーロー映画「バードマン」で一世を風靡した俳優のリーガン(マイケル・キートン)。しかし、今やすっかり過去の人。その彼が自身の脚色、演出、主演でブロードウェイの舞台に立つことに。付き人は娘のサム(エマ・ストーン)。出演者には自分の恋人&下積み時代を経てやっとチャンスを得た女優レズリー(ナオミ・ワッツ)もいました。

ところが共演者のひとりが降板。窮地を救ったのはレズリーの元彼の人気俳優マイク(エドワード・ノートン)でしたが、彼は人として最低な男で……。

【一世一代の演技とはこのこと!】

第87回アカデミー賞授賞式、この映画で主演男優賞候補だったマイケル・キートンは惜しくもエディ・レッドメイン(『博士と彼女のセオリー』)に破れました。

エディの名前が呼ばれたとき、マイケルが受賞スピーチ用に用意したメモをそっとしまってエディに拍手する姿……泣けました。なぜならマイケルはリーガン役に自分のキャリアを投影させて、何もかも投げ捨てるような、ものすごい熱量の芝居を見せているからです。

マイケルもかつて『バットマン』シリーズでタイトルロールを演じて人気俳優になりましたが、その後、地味に役者道を貫いていたようです。だからこそ、リーガン役を怪演したキートンの受賞があってもいい! カムバーック! と思ったのです。

とにかく複雑な役ですからリーガンは。必死に這い上がろうとする一方、もうひとりの自分(バードマン)がネガティブな感情を心にぶち込んでくるのです。リーガン本人と分裂したもうひとりの自分との対話は圧巻です。中年になり、様々な経験を経て、一度落ちて這い上がるとき、過去の自分と生まれ変わりたい自分はこんなにも葛藤するものかと、なんだか学びを得たような気持ちに。

【誰の心にもバードマンはいる】

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』の演出でアカデミー賞監督賞を受賞したアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督は、常に挑戦をし続ける監督です。

「私は以前から40歳を過ぎたら、自分が怖いと思わないことはやる価値がないという意見だ。この作品は良い意味で怖かった。新しい領域であり、間違いなく安全地帯の外にいたからだ」

ユーモアがありながら厳しい人間観察、リアリティを追求しながらも幻想的な描写を挟むなど、これまでのイニャリトゥ作品にはない世界を見ることができます。

「これは私たちを描いた物語だ。リーガンは今まで賞賛を受けることが愛情だと勘違いしていたが、そうではないと気付いたことで、自分自身を認め、他人を愛する方法を苦しみながら学ぶことになる」

年齢を重ねるにしたがって、人は頑固になり、自分のやり方を押し通すようになるけれど、それは今に適応できないための防御でしかないのかもしれない。守るだけでは前進できないのです。映画でリーガンは人気俳優のマイクに「セリフが古い」と言われ、娘のサムに「パパはとっくに忘れられている」とグサグサと心に突き刺さるようなことを言われます。でもそれが現実。その現実を受け入れるための闘いをショービジネス界の裏側を舞台に描いたのがこの映画なのです。

若い人は「そんなもんなのかな」と思うだけかもしれない。でも家にいる頑固なお父さんと重ねあわせてみれば、ハッと気付くことがありそう。ほらお父さんって自分が理解できない新しいことに直面すると、わからないって言いたくないから「なんだこんなもの」とか「昔は自分でやったもんだ」とか言うじゃないですか。それと一緒。意外とリーガンとサムの会話は父娘のあるある感が満載かもしれません。

執筆=斎藤 香(C)Pouch
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『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
2015年4月10日よりTOHOシネマズ日本橋、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ
出演:マイケル・キートン、ザック・ガリフィナーキス、エドワード・ノートン、アンドレア・ライズブロー、エイミー・ライアン、エマ・ストーン、ナオミ・ワッツ、リンゼイ・ダンカンほか
(c)2014 Twentieth Century Fox