夏の風物詩として長年君臨してきたけれど、ここ数年とくに、毎夏盛り上がりを見せる「かき氷」。中でも最近のトレンドは、口に入れるとホロッと溶けちゃうようなやわらかな口当たりのもの。そしてシロップも実に手が込んだものが多いですよね。
そんな“イマドキのかき氷”の陰で、何十年も昔からその土地でだけ愛され続けてきた、ちょっと変わったかき氷があるんです。それが三重県紀北町のローカルフード「すいか棒」。使用する氷は、近くを流れる銚子川の水を素材とする、その透明度から「氷のトロ」とも呼ばれているほどのプレミアム氷!
「すいか棒」に「氷のトロ」……!? その響きに魅了され、このたび三重県は紀北町に実際に食べに行ってきました!
【紀北町ってどのへんにあるの?】
ひし形のカタチをしており、南北に距離が長い三重県。北部は愛知県名古屋市に近いためにぎやかな場所もありますが、南のほうに下れば下るほど紀伊半島の南端に近づくため、海と山の景色が色濃くなっていきます。今回訪れた紀北町があるのは、三重県の南端・尾鷲市や熊野市の玄関口にあたるエリア。
【最初に断っておくけど、何もない】
ただただ山と海の眺めが続く国道42号線をドライブしてたどり着いた紀北町。ハッキリ言ってね、何にもないです。観光目的で行ったら肩透かしをくらうこと間違いナシ。でも、それはそれで田舎のおじいちゃん・おばあちゃんちに遊びに来たような感じで、なんだかちょっとワクワクしたり。
【「じゅんちゃん」を探してみたものの……】
ここで目指すは「じゅんちゃん」というお店。あらかじめ紀北町のホームページで「すいか棒を食べられる店」としてチェックしていたのですが、目立った看板も出ておらずお店の場所がわからない……。とりあえずカーナビが示す場所で車を停めて探してみると、「氷」という文字が書かれたのれんを発見!
ふつうの民家のような外観で営業してるのかどうかすら怪しいですが、戸が開いているので中に入って奥のほうに「すみませーん」と声をかけてみる。すると、やさしそうなおばちゃんが「はいはい」と出てきたので、「今日、すいか棒は食べられますか?」と尋ねると大丈夫ですよ、とのこと。そのまま中でいただくことに。
【初めてなのに居心地よすぎ】
店内は鉄板のついたテーブルがいくつかとパイプ椅子。「お好み焼きもやってるんですか?」と聞くと、「そう、お好みもやってるんよー。夏はかき氷だけやけどな」とおばちゃん。すごく気さくでニコニコといろいろ話しかけてくださる方です。そうそう、三重県ではよく「お好み焼き」を「お好み」って略して言うんだよなー。
それにしてもこのお店。ガラガラって開けるタイプの入口、壁に貼られた年季の入った手書きのお好み焼きメニュー、棚にズラリと並んだ「週刊少年マガジン」(ちょっと手垢がついたような)……なぜだか初めて訪れたような気がしない! 子どものころに何度も通ったことがあるような不思議ななつかしさと居心地のよさを感じるのはなんなのか。
【いよいよ、「すいか棒」登場!】
待つこと数分、お皿に乗った「すいか棒」がついに登場! 切ったすいかの形に氷が固められ、緑と赤のシロップが染みこんでいます。素朴で遊び心があって、氷の小さな粒が美しい。
「すいか棒」に刺さった割り箸部分を手で持って氷を口に含んでみると、たしかにすいかの味が……なんてことはなく。味はお祭りの屋台と同じようなキッチュなシロップの味。そして、異様に溶けるのが早いため、食べながらボタボタとしずくが落ちるのはやむなし。急いでシャクシャク、チューチューと食べ進めます。
もうこれね、駄菓子です。1本250円という金額からしても、私が子どものころにこのあたりに住んでたら百円玉握りしめて「おばちゃーん、ちょうだーい」と放課後に友達と買いに来てたわ、絶対。しかし、あなどるなかれ。この「すいか棒」、氷自体はとてもおいしく、「使っている水が澄んでいる」というのが感じられるほどです。
【「氷のトロ」だって!!】
ここで使われている氷を作っているのは、同じ紀北町にある「中口製氷冷蔵株式会社」。町を流れる透明度抜群の銚子川の水を何度もろ過し、時間をかけて凍らせ、不純物が入っていない「純氷」に仕上げるといいます。この製氷の職人が作った純氷は「氷のトロ」とも呼ばれており、ここでしか食べることはできません。
海と山に囲まれた田舎町で昔から親しまれてきたかき氷を味わう……これに勝る旅情はちょっと他にないかも。「すいか棒」は6月下旬から9月中旬までの期間限定。夏が終わる前にみなさんもぜひ一度、食べに行ってみては? 目を引く観光スポットはとくにないけれど、知らない町でただただ過ごしてみる、そういう旅もたまにはいいもんです。
参考:きほくのたび
撮影・執筆=鷺ノ宮やよい (c) Pouch
▼「じゅんちゃん」。中に見えるのは、きりもりされてるおばちゃん
▼紀北町のローカルフード「すいか棒」(250円)
▼おばちゃんが見せてくれた秘密兵器(!?)。これを使って氷を固め、すいかの形にするんだって!
▼ふつうのかき氷も注文。こちらはミルク金時(450円)。氷のシャリシャリ具合が絶妙
▼紀北町。初めて来たのになつかしい感じがする!
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