[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、フランス映画『アクトレス~女たちの舞台~』(2015年10月24日公開)です。フランスの大女優を中心に、アメリカ人マネージャー、アメリカの若手女優の関係を描きながら、映画業界、そして女優業の内幕を見せていく物語。
女優としての地位を確立しながらも、もう若くはないヒロインは、自分の年齢と実力と人気にどう折り合いをつけていくのか、若手の台頭をどう受け止めていくのか……? 実に興味深い作品です。
【物語】
実力派女優のマリア(ジュリエット・ビノシュ)は、彼女を発掘した劇作家の功績をたたえる賞を、その代役として受賞するため、スイスに向かっていました。彼女の予定を管理するのはマネージャーのヴァレンティン(クリステン・スチュワート)。
目的地につくと、マリアは若手演出家から、彼女の出世作となった「マローヤのヘビ」の舞台再演への出演を依頼されます。
マリアは再演に興味を示すものの、かつてマリアが演じた役はアメリカの人気女優ジョアン(クロエ・グレース・モレッツ)に決定しており、マリアに依頼されたのは、ヒロインに翻弄される上司の中年女性役。彼女は出演するか否か、悩みますが……。
【自分自身を維持するための苦悩】
かつて自分が喝采をあびた役に抜擢されたのは若手の人気女優、自分は助演のオファー。これまで築いてきた女優としてのステイタスにぐらつきを覚えるマリア……って、これは女優という職業に限ったお話じゃないってこと。アラサー以上になると誰でも経験することではないでしょうか。まだまだイケると思っていたけど、自分が思っているほど周囲の目にはそう映っていなかった……ということ、ありませんか?
これまで自分が手掛けていた華やかな仕事が、いつのまにか後輩のものになっていたり、かつて自分を口説いていた男にひさびさに会ったら、スルーされたり……。マリアが葛藤する様子を見て、アラサー女子の中には「グサグサ来るな~」とか「これは未来のワタシ?」と、思う人がいるかも……。
ただマリアは知的で品のいい女性なので、嫉妬して乱れたり、愚痴ったりすることはありません。ただ、現実を粛々と受け止めながら、自分のモチベーションや女優としての生き方を模索するのです。
マリアとジョアンの関係は何気なく二人が演じる舞台「マローヤのヘビ」のストーリーに重なるようで、セリフを言いながら、マリアの気持ちと役の気持ちがシンクロするところにグっときます!
【ジュリエット・ビノシュに迫る二人の若手女優】
ヒロインを演じるジュリエット・ビノシュに、キャリアでは追いつかないまでも、素晴らしい演技で映画のストーリーさながらにその座をおびやかすクリステン・スチュワートと、クロエ・グレース・モレッツ。
マリアのマネージャーを演じたクリステンは、撮影現場に現れると台本をサラっと読んだだけで芝居に入ったそう。
「すべてを把握したらあからさまになりすぎるから」
というクリステン。かっこいいなあ! 年上のベテラン女優マリアに頼りにされ、悩む彼女に核心を突いた言葉でハっとさせる有能なマネージャー役で、クリステンはアメリカ女優初のセザール賞助演女優賞を獲得しました。
そして、クロエは若くイケイケなゴシップ女優を演じて、良い子なイメージを自らブチ壊しています。よく言えば自由人なのですが、先輩女優への態度などは配慮にかけていて失礼だし、けっこう見ていてムカムカ……。それは彼女が上手く演じていたからで、絶妙な小悪魔ぶりは必見です。
【マリアの衣裳&メイクはシャネル!】
ジュリエット・ビノシュ演じるマリアが授賞式でまとっているドレスやジュエリーを始め、劇中の衣裳の数々を提供したのはフランスの老舗ブランドであるシャネル。またメイクアップも担当しているので、この映画のヴィジュアルのきらめきは、シャネルのおかげ。
制作費の一部もサポートしており、ハイブランドらしく、美と芸術のためのバックアップをかかさないところも素敵です。
この映画は考えてみると「マローヤのへび」の女の関係、マリアとジョアンの関係、そしてビノシュとクリステン、クロエという、女優の関係が三重構造になっているという見方もできるかも……すごい。
マリアはどうやって葛藤に答えを出すのか……。女友だちと見たら話しあい、ひとりで見たら、自分自身を振り返り……。そんな風に、仕事や生き方についても、いろいろ考えさせられる映画です。
『アクトレス~女たちの舞台~』
2015年10月24日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツほか
(C)2014 CG CINEMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinema – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR
▼映画『アクトレス~女たちの舞台~』予告編
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