【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは松竹映画100周年記念作品『キネマの神様』(2021年3月6日公開)です。

2020年、主役のゴウ役をつとめていた志村けんさんが急逝。志村さんの遺志を継いで代役をつとめたのが、親交が深かったジュリーこと沢田研二さんです。

ゴウの若い頃を演じるのが菅田将暉さん。ほかにも永野芽郁さんや北川景子さん、野田洋次郎(RADWIMPS)など豪華な出演陣です。いい意味で昭和感がたっぷりあって、しみじみ感動できる映画でした。では物語から。

【物語】

ギャンブル好きの老人ゴウ(沢田研二)は常に借金をかかえて妻(宮本信子)や娘(寺島しのぶ)を困らせてばかり。でもそんなゴウにもかつて情熱を燃やした仕事がありました。それは映画制作。助監督時代のゴウは、映写技師のテラシン(野田洋次郎)、スター女優の園子(北川景子)と映画のことを語る日々。

と、同時に二人は近所の食堂の淑子(永野芽郁)に思いを寄せていました。そして、ついにゴウが映画監督デビューをする日が来ます。自ら書いた脚本で撮影が始まりますが、あるアクシデントが起こり……。

【志村けんさんの姿が目に浮かぶ】

ギャンブルの借金が膨れ上がり、借金取りに追いかけられているゴウ。妻や娘に甘えっぱなしで本当にしょうもない男なのですが憎めない。見ているうちに「ああ、これはまさに志村けんさんの役だなあ」と思わずにいられませんでした。

酒好きで、家族を困らせてばかりいるけど、不思議な魅力があって、家族は彼を見捨てることはできないのです。

どこか愛嬌があるところが、志村さんぽいなあと。その一方、ゴウは、自分自身に期待をしてないような、人生を投げているようなさみしい感じもあるんですよ。たぶんそれは過去の失敗に起因しているんだと思います。

【映画制作の裏側が見られる!昭和の雰囲気が楽しい】

若い頃のゴウは映画に夢中! 昭和の映画業界の裏側は興味深く、いまみたいにCM監督から映画監督へ転身するなんてことはなかったから、映画監督はみんな助監督時代を経て、監督へとステップアップしていったんですね。

ゴウは助監督として師匠(リリー・フランキー)のもとで働きながら、仲間たちと熱く映画について語ったりして、夢と希望がいっぱいでキラキラしていました。

でも監督デビューが決まると、プレッシャーと闘うハメになってしまう。このデビュー作の一件をゴウはずっと引きずることになるのです。

【菅田将暉と野田洋次郎の神的2ショット】

俳優陣はみんなイキイキ演じていました。昭和のスター女優・園子を演じる北川景子さんは、もしかしてキャリアベストでは?と思うほどのが超ハマリ役!

セリフ回しとか、たたずまいが本当に昭和の美人女優そのものですごく良かった。

また若き日のゴウを演じる菅田将暉さんと親友のテラシンを演じる野田洋次郎さんの2ショットも神! 野田さんも良かったんですよ、まさか二人の共演作を山田洋次監督作で見られるとは!

【ジュリーが志村けんに寄せていく凄さ】

さて、ゴウ役を見事つとめあげたジュリーこと沢田研二さん。風采の上がらないダメ男を徹底的にしょうもなく演じていました。沢田さんはかなり志村けんさんに寄せて演じていた印象でしたが、個人的にはせっかくジュリーが演じるんだから、もっとかっこつけてもよかったじゃないかなあとも。

菅田さんが演じた若い頃のゴウは、けっこうまっすぐな男だったし、モテ要素もあったので、そこを活かしたゴウも見たかったとちょっと思いました。でも沢田さんの中では、志村さんと二人三脚で演じきったゴウだったのかもしれません

志村けんさんの逝去、新型コロナウイルス感染拡大による撮影の中断など、さまざまな壁を乗り越えて完成した映画『キネマの神様』。

まだまだコロナ禍で不安だらけの世の中だからこそ、こういう青春、家族、友情の物語を見て、人と人との繋がりの大切さやありがたさをじんわり感じてほしいです。

執筆:斎藤 香 (C)Pouch

キネマの神様
(2021年 8月6日 TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:山田洋次
原作:原田マハ「キネマの神様」(文春文庫刊)
出演:沢田研二、菅田将暉、永野芽郁、 野田洋次郎/北川景子、寺島しのぶ、小林稔侍、 宮本信子
(c) 2021「キネマの神様」製作委員会