【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは坂口健太郎さんと齋藤飛鳥さんが共演した映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』(2023年4月14日公開)です。監督は関ジャニ∞の大倉忠義さんと成田凌さんが共演した映画『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020年)など、多くのヒット作の脚本を手がけた伊藤ちひろさん。
試写で鑑賞しましたが、ひと言では言い表せないとても不思議な作品でした。では物語から。
【物語】
そこに存在しない “誰かの想い” が見える青年・未山(坂口健太郎さん)。彼はその力を、体の不調に苦しむ人やトラウマを抱えた人のために使い、心を癒していました。
ある日、高校時代の後輩・草鹿(浅香航大さん)の気配を感じ始めた彼は、真意をたしかめるために彼に会いに行きます。
そのとき、草鹿が「あんたがほったらかしにした過去だよ」と未山に引き合わせたのは、元恋人の莉子(齋藤飛鳥さん)でした。
【リアルと現実の狭間】
とても不思議な作品でした。この “不思議な感じ” はどこから来ているのかと考えたのですが、おそらく未山の特殊な力と謎めいた過去から来ているのではないかと思いました。
不調に苦しむ人の愛する人や大切な人の想いを感じて、その想いを伝えることで人々を救ってきた未山。
しかし、彼自身は過去を封印していました。なぜなら恋人でシングルマザーの詩織(市川実日子さん)とその娘・美々(磯村アメリさん)との暮らしが幸せだから。
詩織は未山の過去についてあれこれ詮索することなく、日々ささやかな幸せを積み重ねていくことを大事にしている女性。そんな彼女といれば、彼は過去を振り返らなくてすむわけです。
でも未山が草鹿の気配を感じ始めたときから彼の生活は変化していきます。そこに存在しない草鹿のメッセージを受け取り、「なんだろう」と未山が会いにいくと、そこで彼は草鹿に「あんたがほったらかしにした過去」と言われた元恋人の莉子と対峙します。
【未山のダークサイドに住む莉子】
未山の自宅は、自然光が降り注ぐ明るい詩織の家とは違い、日の当たらない暗い部屋。それはまるで彼の過去の世界を表現しているようです。
その暗い部屋に莉子を運び、隠すように面倒を見る未山は、詩織の家で暮らしているときの温かな笑顔はありません。
しかし、そんな彼の生活に風穴を開けたのは詩織。彼女は未山と莉子を陽の当たる場所に連れていくのです。
【未山と莉子を支える詩織の存在】
この映画は未山と莉子の不思議な関係性がクローズアップされがちだけど、物語の重要ポイントにいるのは詩織。
未山と莉子は心がユラユラ揺れているけど、詩織は地に足がついていますからね。詩織がいなかったら、ふたりはずっとダークサイドの住人だったし、未山も過去と向き合うことができなかったと思うのです。
詩織はとにかくいい人で、未山の元恋人・莉子にも優しくて……。観ているこちらも詩織の存在にホッとさせられました。
【キャスティングが!】
坂口健太郎さんは掴みどころのない未山という役に入り込んで演じていて、全く違和感がなかったです。前作『ヘルドッグス』(2022)では凶暴なヤクザを演じていたので、その激変ぶりに驚き! 役者・坂口健太郎はやはり只者ではありません!
そして乃木坂46を卒業した齋藤飛鳥さん。セリフが少ない中、複雑な思いを抱えながら変化していく莉子は、かなり難役だったと思います。でも軽やかに演じ切っていて、齋藤飛鳥さんの可憐さが莉子役にピッタリでした。
そして、不思議な世界にリアルを与えていたのは詩織を演じた市川実日子さん。この映画を支えていたといっても過言ではない、さすがの安定感でした!
観終わったあとも、どこかフワフワした気持ちが残る映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』。この浮遊感と美しい映像をぜひスクリーンでお楽しみください。
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2023「サイド バイ サイド」製作委員会
『サイド バイ サイド 隣にいる人』
(2023年4月14日より TOHO シネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー)
監督・脚本・原案:伊藤ちひろ
出演:坂口健太郎、齋藤飛鳥、浅香航大、磯村アメリ、市川実日子
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