【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、堺雅人さん主演映画『平場の月』(2025年11月14日公開)。朝倉かすみの同名小説の映画化作品で、映像化権をめぐり30社以上のオファーがあったそう。そんな人気小説を演出したのは大ヒット作『花束みたいな恋をした』(2021)の土井裕泰監督。さらに、主題歌は星野源さんが本作のために作り上げた『いきどまり』。

これは見なくちゃ!と試写で鑑賞したのですが、心にしみる大人のラブストーリーでめちゃくちゃよかった〜!

それでは、物語から。

【物語】

妻と別れて地元に戻り、印刷会社で働いている青砥健将(あおと・けんしょう / 堺雅人さん)は、検査で訪れた病院の売店で中学時代の同級生・須藤葉子(井川遥さん)と再会します。

中学時代、実は彼女のことが好きだった青砥。再会以来、一緒に飲みに行くようになり距離が縮まっていくのですが、二人の未来を阻む出来事が……。

【初恋の相手と大人の恋を築いていく】

久々に大人の恋愛映画にどっぷり浸りました! 中学時代の初恋の相手と再会し、再び熱い思いが蘇るなんてロマンチックだし、何よりふたりの気持ちが高まっていくプロセスが素晴らしい。

中学時代からの知り合いだから、当時と同じく「青砥」「須藤」と苗字で呼び合うのもいいし、離ればなれの時間の隙間をうめていくように中学卒業から中年になるまでお互いどんな人生を歩んできたかを語り合うところもいいんですよね〜。

とりわけ須藤の人生は波瀾万丈! 夫と死別、若い男に貢ぐ……など驚きエピソードが満載。須藤は頑固なところもあるけれど、とても素直な人で、話を盛ったり見栄を張ったりたりすることは決してしない。自分の気持ちに正直に生きてきたんだろうな〜と、とても信頼できる人という感じがしました。だからこそ、青砥も彼女にまた惹かれたんだと思います。

その須藤を演じる井川遥さんが本当に素晴らしかった。ぶっきらぼうな喋り方ですが、愛嬌があるし、悲しい過去を背負っている陰を感じさせつつも重くならない。井川遥さんの新たな代表作になるのではないでしょうか。

【堺雅人が恋する中年男性を魅せる】

堺さん演じる主人公の青砥は初恋の人と再会してからの心の動きを丁寧に見せてくれます。離婚後、印刷会社の仲間とワイワイやりながらも少し寂しそうだったりする冒頭から一変。須藤と再会して飲みにいくようになってから、笑顔が増えてウキウキした感じになるところがいいんですよね〜。

また須藤と友だちから恋愛に発展していく過程もとても自然で、男女の関係が友情から恋愛へと変わっていく気持ちの変化、青砥の止められない情熱がスクリーンから感じられてドキドキしました。

青砥はやさしいな、いい男だな、としみじみ……。

【主題歌は星野源の書き下ろし!】

青砥と須藤の恋愛が、どのように発展していくのかは映画を見てのお楽しみですが、最後、もう胸がいっぱいになっちゃって……。そんな気持ちのままエンドールに流れる星野源さんの主題歌がまた良き。実は、土井監督と那須田プロデューサーが直接星野さんに会いに行き、主題歌の依頼をしたそうです。星野さんはこの曲についてこう語っています。

「最近、私は自身を焼き付けるような楽曲を書いてきましたが、この『いきどまり』は自身を歌ったものではなく、歌の中に物語があり、それが一人称で語られる楽曲です」(公式プレスより抜粋)

青砥と須藤を包み込むような歌で、映画の感動がメロディにのって体にしみこんでいくようでした。

恋愛って何歳になっても、ドキドキしたり、ハッピーになったり、恥ずかしくなったりするもんなんだなと。でも大人の恋愛は、恋より愛が強い。それは相手を思いやる心がより感じられるからかなと思いました。

ぜひぜひスクリーンで見て、大人の恋愛にしみじみ感動していただきたいです!

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2025映画「平場の月」製作委員会

平場の月
2025年11月14日(金)より全国ロードショー
監督:土井裕泰
原作:朝倉かすみ「平場の月」(光文社文庫)
出演:堺雅人 井川遥
坂元愛登 一色香澄
中村ゆり でんでん 安藤玉恵 椿 奴 栁俊太郎 倉悠貴
吉瀬美智子 宇野祥平 吉岡睦雄 黒田大輔 松岡依都美 前野朋哉
成田凌 塩見三省 大森南朋
脚本:向井康介
主題歌:星野源「いきどまり」(スピードスターレコーズ)