[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回のピックアップは明日27日公開の映画、嵐の櫻井 翔主演『神様のカルテ』。2010年度本屋大賞第2位になった夏川草介のベストセラー小説の映画化です。櫻井演じる栗原一止の妻ハル役は宮崎あおい。

保険会社のCMでもおなじみのふたりですが、残暑の夏にさわやか~な風を運んでくれるこのカップルの共演作は、櫻井がクランクアップで涙を流すほど! 彼にとって思い出深い作品になったようです。

信州・松本の医師不足に悩む病院の医師・栗原一止(櫻井 翔)の激務の日々と、一止を頼ってきたひとりの女性患者(加賀まりこ)といつも一止を見守るやさしい妻ハル(宮崎あおい)とのエピソードを軸に、医療の本質と、医者と患者の関係性などを描いていく本作。櫻井は、これまで演じたことのない役に「悩みに悩んだ」そうです。何しろ前作は三池崇史監督の『ヤッターマン』ですから。2年前とはいえ、180度違う役に挑戦です。

一止は夏目漱石に心酔しており、漱石風の話し方をする。そこに一止の気持ちものせていかなければならないのが難関! そんな櫻井を温かく見守っていたのは、深川栄洋監督。一止の役作りとして、ボサボサ天然パーマ風にしましたが、監督も同じ髪型にして一止に近づき、「これでいいのか……」と正解を求めて悩みながら演じていた櫻井に「櫻井くんの一止でいいんじゃないか」とアドバイス。櫻井も「監督の言葉で少し軽くなった気がします」と語っています。

それでもクランクアップまで、一止から心が離れることはなく「一瞬でも一止から離れたら、いままで築いてきた物が壊れてしまう気がして。まったく気が抜けなかった」と、撮影期間、ずっと一止とともに生きた櫻井。クランクアップのとき、深川監督に花束を渡しながら涙をこぼしたのは、監督への感謝の気持ちと達成感+安堵感だったのでしょう。

公開前、この映画に関する数々の取材を受け、映画を見た記者から「櫻井くんと一止って似ていますね」と言われることが多かったそうです。「自分じゃ全然違うと思っていたけど、よく言われる。人から言われるってことは似てるのかな?」。意外だとばかりに言っておりますが、似てるってことは、芝居がピッタリはまった! ということでは? 悩み抜いた日々は確実に実を結んだのです。よかったよかった!

そして映画はとても温かくぬくもりのある作品に仕上がっております。一止の不器用だけど、真摯な生き方、患者との向き合い方は理想です。一止を頼ってきた女性患者が、彼を頼った理由が明かされる後半は涙涙……。私も病に伏したら、栗原一止に診てもらいたいと思ったくらい。今年の猛暑に弱った体を癒してくれる良作です。

(映画ライター=斎藤香


『神様のカルテ』

8月27日公開
監督:深川栄洋
出演:櫻井 翔、宮崎あおい、要潤、吉瀬美智子、岡田義徳、朝倉あき、原田泰造、西岡徳馬、池脇千鶴、柄本明、加賀まりこ

(C)2011 「神様のカルテ」製作委員会 (C)2009 夏川草介/小学館文庫