【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは『カメラを止めるな!』の大ヒットでおなじみの上田慎一郎監督の最新作『スペシャルアクターズ』(2019年10月18日公開)です。

空前のヒットとなった『カメ止め』。日本アカデミー賞候補になったり、ブルーリボン賞作品賞を受賞したり、それはもうお祭り騒ぎでしたが、それだけに最新作はかなりプレッシャーがあったと思われます。さて、出来栄えは……これがめちゃくちゃ面白いんです!

【物語】

売れない俳優の和人(大澤数人)は、緊張やプレッシャーに弱く、すぐ気絶してしまう。そんな自分に嫌気がさしていたところ、和人は数年ぶりに弟の宏樹(河野宏紀)と再会。依頼人の悩みを役者が芝居で解決する俳優事務所「スペシャルアクターズ」で働いているという弟の誘いで、和人も仲間に入ることに。

そこに「カルト教団に乗っ取られそうな旅館を守ってほしい」という依頼が舞い込みます。和人はこのミッションの中心メンバーに抜擢されますが、彼は極度の緊張で気絶する病のことを事務所に隠していたのです。

【B級映画の魅力が思いきり炸裂するエンタメの傑作!】

結論から言うと、本当に素晴らしかったです!

『カメラを止めるな!』では、気持ちよく騙され、大いに笑わせてもらいましたが、今回は大いに騙され、そして泣けました!

何より素晴らしいのは、『カメラを止めるな!』がヒットしてメジャーになっても、上田監督はインディーズ魂を貫き、前作とは一味違う素晴らしいB級映画の傑作を完成させたことです。本作は「松竹ブロードキャスティングオリジナル映画プロジェクト」の第7弾で、キャストはワークショップで発掘した俳優たちというのがいいです。

無名の俳優たちが、観客を楽しませようとMAXの力を振り絞って演じる姿は、演技で人助けをする「スペシャルアクターズ」のポリシーと重なるからです。

【全員キャラが立ち、ニヤニヤ笑いが止まらない!】

とにかく物語と各キャラクターが実にユニークです。カルト教団から旅館を救うをいう依頼を受けたスペシャルアクターズは、カルト教団内部へ侵入して、詐欺の証拠をつかもうとするわけですが、何しろ中心となって行動するのが、緊張すると気絶する和人ってところがミソです。肝心なところで白目むいて倒れるもんだから見ている方は「また気絶する~」とニヤニヤしっぱなしです。

またカルト教団のインチキぶりも素晴らしくうさん臭くて、スペシャルアクターズVSカルト教団は、終始ドタバタコメディで本当に楽しい! 登場人物も多く、結構入り乱れるのですが、それぞれキャラがしっかり立っているので混乱することはありません。これは上田監督の脚本がしっかり練られていることの証でしょう。

【すごく温かくて愛情に溢れたコメディ】

(以下、少々ネタバレ有です)
『スペシャル・アクターズ』の魅力は、全編に散りばめられた笑いや設定のおもしろさもあるのですが、最後まで見るとすごく愛に溢れた映画であることがわかります。

そもそも演技で人助けをする俳優たちが主人公というのが良い。誰かを助けるためにシナリオを描いて、一生懸命芝居を練習をして、本番に臨む彼らの姿はとても頼もしくかっこいいです。白目をむいてぶっ倒れてもリタイヤせずにやりぬく和人もアッパレです。

『カメ止め』みたいに前半と後半がガラリと変わるようなトリックはありませんが、最後まで見ると「あ~そうだったのか!」と驚き、ホロリとくるような仕掛けが隠されています。騙されてもスッキリして「良かった~」と思えるなんて、なんて幸せな映画でしょう!

いろいろと世知辛い世の中で、しんどいな~とか、テンション上がらないな~とか思っていたら、ぜひ『スペシャルアクターズ』をご覧ください。たくさん笑って、楽しい気持ちになって、最後にキュンとさせてくれる本作は、癒しをくれるコメディー映画でもあるのです。

執筆:斎藤 香 (C)Pouch

『スペシャルアクターズ』
(2019年10月18日より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー)
監督・脚本・編集・宣伝プロデューサー:上田慎一郎
出演:大澤数人 河野宏紀 富士たくや 北浦愛 上田耀介 清瀬やえこ 仁後亜由美 淡梨 三月達也 櫻井麻七 川口貴弘 南久松真奈 津上理奈 小川未祐 原野拓巳 広瀬圭祐 宮島三郎 山下一世