[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは4月21日公開の『裏切りのサーカス』。ゲイリー・オールドマンが本年度アカデミー賞主演男優賞候補になった英国のスパイ映画です。原作はジョン・ル・カレのスパイ小説「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」。サーカスとは英国諜報部を差す隠語です。

ル・カレは元・英国諜報局秘密情報部(MI6)のメンバーで、この原作は彼の体験をベースに書かれていると言われています。つまり映画で描かれるスパイたちの諜報活動はあながち嘘ではないと言うことです。しかし、その活動の複雑なことったら! 正直、記者は1回見ただけではよくわからず、2回見てしまいました。でもなんかもう1回見たいと思っている自分がいます。わからないけれど、おもしろい! これって凄くないですか? 中毒性のあるスパイ映画。それが『裏切りのサーカス』なのです。

舞台は70年代前半。英国諜報局秘密情報部(MI6)とソ連国家保安委員会(KGB)の情報戦が頂点を迎えようとしているとき。英国諜報部に「もぐら」つまりソ連のスパイがもぐりこんでいることがわかります。その「もぐら」を捕まえるため、一度MI6をクビになった主人公のスマイリーが呼び戻され、相棒とともに捜査が開始されますが…。

ではこの映画の「もう1回見たくなるポイント」をあげてみましょう。
①スパイの中のスパイを探す……つまり「二重スパイを探せ!」というわけですから、話はややこしくなります。また皆さん優秀ですから、真犯人もそう簡単にミスは侵しません。何気ない一言や映し出される映像の中に何かヒントが……と目を皿にしますが、なんか見逃した気がして、もう1回見たくなる!

②原作タイトルの「ティンカー、テイラー、ソルジャー~」というのは英国諜報部のメンバーのコードネーム。これにプアマンが入り、この4人のうちの誰かが二重スパイだと思われています。スパイ容疑者の皆さんは劇中、コードネーム以外の本名でも呼ばれるので、誰が誰だかわからなくなります。加えてソ連サイドの大物カーラや秘密を握るリッキー・ターなどが加わり、人物関係が複雑。とりあえず家に持ち帰り、登場人物を整理して、もう1回見たくなる!

③この映画は、スパイという仕事に生きてきた男たちの孤独も描かれています。スマイリーと英国諜報部の仲間たちとの過去が時折回想シーンとして挿入されていきます。正直、現在のスマイリーと過去のスマイリーのルックスに違いがないので「あれ、これ昔の話?」と混乱します。1回目は過去と現在が頭の中で入り乱れるので、もう1回見たくなる!

④70年代を再現するために、クリエイティブ面の協力者としてデザイナーのポール・スミスがアイデアを出しているそうです。携帯電話もPCもない時代。古い電話、タイプライター、70年代の車、街並み、衣装すべてがクール! 1回目は筋を追うのに必死で美術や映像を堪能する余裕がないので、ビジュアルを楽しむために、もう1回見たくなる!

とにかく1回見ればわかります。エンドロールの間「もう1回!」と言いたくなるから。それくらいわからない、けど、その魅力に引きこまれてしまう不思議な力を持ったスパイ・ミステリー『裏切りのサーカス』。

ちなみに監督はスウェーデンのトーマス・アルフレッドソン。あの名作『ぼくのエリ 200歳の少女』の監督です。原作者のジョン・ル・カレに、

「本作は小説の映画化ではない。私の目には本作自体が芸術品に映る。私はこの原作をアルフレッドソンに渡したことを誇りに思っている」

と絶賛されました。独特の色彩感覚による美しい映像は絶品&ゲイリー・オールドマンの寡黙な中から醸し出す色気も素敵! 何度も映画館に足を運びたくなる『裏切りのサーカス』。さあ、あなたもハマってください!

(映画ライター=斎藤 香


『裏切りのサーカス』
4月21日公開
監督: トーマス・アルフレッドソン
出演:ゲイリー・オールドマン、キャシー・バーク、ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、スティーブン・グレアム、トム・ハーディ、キアラン・ハインズ、ジョン・ハート、トビー・ジョーンズ、サイモン・マクバーニー、マーク・ストロング