[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは6月23日公開のジョディ・フォスター監督&主演作『それでも、愛してる』です。本作は、うつ病を患った夫を支える妻と子供たちを描いた夫婦愛、親子愛を描いたホームドラマで、ジョディは監督&夫を支える妻を演じています。

主人公はおもちゃ会社の2代目社長ウォルター。幸せを絵に描いたような家族だったのに、ウォルターはうつ病を発症し、引きこもりのようになってしまいます。カウセリングなどあらゆる手を尽くしてもウォルターはふさぎこんだまま……。

ある日、彼は自殺をしようとしますが、そのとき手にしたビーバーのぬいぐるみが「お前を救うためにやってきた!」としゃべります。その声はウォルターなのですが、彼はビーバーが自分を救いに来たと思い、そのときからうつ症状はなくなります。でも彼はビーバーから離れることができなくなり……。

この映画は08年「映画化されない優秀な脚本№1」に選ばれ、誰が映画化するのかと噂になっていた作品でした。監督に決まったのは、良質のホームドラマを2本演出した経験のあるジョディ・フォスター。そして、彼女がウォルター役に指名したのはメル・ギブソンでした。『マッドマックス』『リーサル・ウェポン』シリーズなどのヒット作に出演。『ブレイブハート』ではアカデミー賞監督賞に輝くという栄誉を得ましたが、ここ数年は離婚、再婚、再婚相手をDV、飲酒運転で交通事故、差別発言で大問題などトラブル続き。大手事務所からも見放され、復帰絶望とさえ言われていました。そんな彼に手を差し伸べたのがジョディです。

『マーヴェリック』で共演以来、大親友だと言うジョディとメル。窮地の親友に出演依頼をしたジョディは「悲劇も喜劇も演じられる希有な俳優だから」と抜擢の理由を語っています。メルは「電話をすれば必ず出てくれる。必要な時はいつも側にいてくれる、それがジョディ。彼女とまた仕事ができて本当に嬉しい」と喜びを隠せません。持つべきものは友ですね!

確かに映画のメルは、ジョディの言う通り、悲劇と喜劇が交錯した役をものすごいエネルギーを発して演じています。と同時に、ビーバーを手に腹話術師のように自分を語る饒舌なウォルターの明るさを見ていると「これって躁状態?」と。うつ病について簡単には語れませんが、そんな気配を感じさせます。ウォルターがビーバーと明るく振舞うほどに「引きこもりが治ってよかった」というよりも、恐怖とか不安とか危機感を感じさせるのです。

うつ病を大胆な解釈で語りつつも、すごく繊細なドラマです。なかなか映画化されなかった理由がわかります。時折ユーモアもありますが、記者は心の底から笑えませんでした。また、ビーバーと離れられなくなったウォルターの最後の決断には、病はここまで人を傷つけるのかと絶句……。

心の病を救うのは、自分の言葉を代弁するぬいぐるみじゃない。危ういけれどやっぱり家族の絆。信じたい家族の絆!という気持ちにさせられるホームドラマ『それでも、愛してる』。見終わった後、誰かと話したくなる、そんな作品です。

(映画ライター=斎藤 香


『それでも、愛してる』
2012年6月23日公開
監督 ジョディ・フォスター
脚本 カイル・キレン
出演:メル・ギブソン、ジョディ・フォスター、アントン・イェルチン、ジェニファー・ローレンス、ライリー・トーマス・スチュワート
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