[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは8月4日公開の韓国映画『トガニ 幼き瞳の告発』です。日本でもいじめ事件や、子供たちへの虐待のニュースが後を絶たないけれど、この映画が描く世界もそれらの事件と同じように、子供たちが逃げ場のない世界で傷つき苦しんだ実在の事件を描いた作品です。
物語は、聴覚障害者学校が舞台。恩師の紹介でこの学校に赴任となった美術教師は、この学校に異様な雰囲気を感じます。そしてすぐに教師たちがしつけと称して、激しい暴力を子供たちに与えているのを目撃するのです。彼は人権センターの幹事の女性とともに、子供たちから事情を聞きます。すると子供たちは、校長を始めとする教師たちから、性的虐待を受けている事実を打ち明けられるのです。
真実から目をそらさずに、しっかりと事実を映し出した映像は感動作だなんて簡単に言えない、救いようのない真実が描かれています。興行成績を塗り替えようと製作された作品ではなく、この事実を多くの人に伝えたいという思いがつまった作品なのです。
あまりに残酷な学校側の加害者は、絵にかいたような悪人ですが、これが実在したというのだから背筋が凍ります。本作は作家のコ・ジヨンの著作を映画化したものだけれど、彼女は、社会の弱者を、権力を使って食い物にする加害者を銃弾したい、弱い子供たちを救いたいという思いがあったはず。
そしてその想いは、この原作を手にした主演男優のコン・ユに伝わったのです。彼は兵役についたときに指揮官からプレゼントされたコ・ジヨンの原作を読んで衝撃を受けて「絶対に映画化を」と自ら動いたそうです。そして、彼らの「多くの人に伝えたい、子供たちを助けたい」という想いは実を結びました。
本作が韓国で公開されると、その影響力はすさまじい威力を発揮したのです。2011年10月、子供への性暴力犯罪の処罰に関する改正案を「トガニ法」と名付けて国会を通過し、法律改正されました。
そして2012年7月、女生徒への性暴力で加害者である行政室長に対し、裁判所は「懲役12年、10年間の身元公開と電子足輪装着」を命令したのです。この映画のヒットにより、国が動いた! これって凄くないですか?ひとつの映画にこれほどの力があるとは!
すべて原作のコ・ジヨン、映画化のために行動した主演のコン・ユ、真実から目をそむけずに真摯に描き切ったファン・ドンヒョク監督、そして性犯罪の被害者という厳しいシーンを体当たりで演じた子役たちやすべてのキャストとスタッフの想いが集結したからこそ、なしえたことでしょう。
被害者が地獄を明らかにしなければいけない、このような性犯罪による虐待はおそらく闇に葬られている物も多いのでは?でもこのような事件はしっかり罰すべきこと。芸能界、映画界など世間に影響力のある人たちが動くことで、素知らぬ顔をしている加害者を罰するきっかけを作ることができると証明した『トガニ 幼き瞳の告発』。衝撃的な力作です。
(映画ライター=斎藤 香)
『トガニ 幼き瞳の告発』
8月4日公開
監督・脚本: ファン・ドンヒョク
原作: コン・ジヨン
出演: コン・ユ、チョン・ユミ、キム・ヒョンス、 チョン・インソ、ペク・スンファン、チャン・グワン
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