【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは有村架純、森田剛共演作『前科者』(2022年1月28日公開)です。香川まさひと(原作)月島冬二(作画)の同名原作漫画の実写映画化。

犯罪や非行に走った人間の更生を手助けをする保護司を演じる有村架純さんと、前科者を演じる森田剛さん。V6解散後ジャニーズ事務所を離れた森田さんの姿を早々にスクリーンで観られるのはうれしい限りです!

では、物語からいってみましょう。

【物語】

阿川佳代(有村架純)はコンビニで働きながら保護司として問題を起こした前科者を更生する手助けをしています。

工藤誠(森田剛)も佳代がサポートしているひとり。仮釈放中で自動車修理工場で働く彼は、とても真面目で、社長が「保護観察が終わったら社員にしてもいい」と言っているほどでした。ところが保護観察が終了間近に、工藤が失踪してしまうのです。

【森田剛だからこそ演じられた工藤】

犯罪を犯した加害者には、さまざまなパターンがあります。許せないほどの極悪人もいますが、やむにやまれぬ事情を抱えた人も。この映画で佳代がサポートする工藤は後者。

10歳のとき、義理の父親(リリー・フランキー)に目の前で母を殺され、弟と施設を転々として成長。しかし、就職先で彼を暴力で苛め抜いた先輩を殺してしまったのです。

夢や希望を抱くことなく、ただ生きることで精いっぱい。工藤は、地を這うような人生を送ってきたのではないでしょうか。口下手で人とあまり目を合わさず、いつもうつむいていますが、ボソボソと話す声はどこかやさしい響きが。

森田さんは受け身の芝居ながら、重い何かを背負った佇まいで、実に印象深い。独特の存在感で役を自分の物にしており、工藤役は森田さん以外、考えられません!

【やっぱり上手い!有村架純さんの緩急つけた芝居に感動】

有村架純さんは、本当にカメレオン女優。見た目は特に変わりない(メガネをかけるくらい)にもかかわらず、役の芯を掴むのが上手すぎるので、スクリーンでは完全に阿川佳代! いつも穏やかな彼女が、前半、会社を無断欠勤してばかりの問題の多い女性の自宅に出向いたとき、女性がドアを開けずに佳代を無視し続けたら、なんと佳代は窓ガラスをたたき割るというワイルドな行為に!

でもこれは怒りではなく、そうするしか彼女とコンタクトを取る方法がなかったからです。諦めず、サポートを必要とする人の手を決して離さない佳代は、行動的で情熱的で温かい。しんどいときに佳代が側にいてくれたら心強いだろうな~と、思わずにいられなかった。だから工藤も佳代には心を開いたのです。

【工藤の生い立ちがサスペンスを生む】

そんな佳代を信頼していた工藤ですが、忽然と姿を消したのはなぜか。そして同時に起こる連続殺人事件。被害者に繋がりがまったくなく、動機がわからないのも不気味です。この事件に工藤は関係しているのでしょうか……。

ここから先は映画を観ていただきたいです。胸が痛くなるような展開ですが、家族の愛情深さも感じられるし、佳代が保護司になった理由もわかります。また、また「生きることは楽しい」「人との繋がりの温かさ」を感じることが犯罪抑制のひとつになるのかもしれないと、佳代の活動を通して伝わってきました。彼女は保護司として、生きることに不器用な人を導いているんですね。

本作は、テレビドラマと連動しており、映画『前科者』は佳代と失踪した工藤、そして佳代の過去の物語。ドラマ「前科者 -新米保護司・阿川佳代-」は、佳代の保護司として成長を描いています。ドラマはWOWOWオンデマンド、Amazon Prime Videoで見られます。とても見応えのある人間ドラマなので、ぜひ!

執筆:斎藤 香 (c)Pouch

『前科者』
(2022年1月28日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督・脚本・編集:岸善幸
原作・作画:「前科者」香川まさひと(原作)月島冬二(作画)小学館「ビッグコミックオリジナル」連載
出演:有村架純 磯村勇斗 若葉竜也 マキタスポーツ 石橋静河 北村有起哉 宇野祥平
リリー・フランキー 木村多江 /森田剛
© 2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会