【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは佐藤正午さんが直木賞を受賞した同名原作の映画化『月の満ち欠け』(2022年12月2日公開)です。大泉洋さんのほか、有村架純さん、柴咲コウさん、目黒蓮さん(Snow Man)、田中圭さんなど出演。生まれ変わりをテーマにしたラブストーリーです。では、物語から。
※ここから先、少しネタバレをしているので要注意です!
【物語】
仕事にも家族にも恵まれ、幸せな毎日を送っていた小山内堅(大泉洋さん)でしたが、愛する妻の梢(柴咲コウさん)と娘の瑠璃(菊池日菜子さん)を交通事故で失ってしまいます。失意の日々を送る彼は退職。青森県・八戸の実家に戻って来ました。
そんなある日、彼の前に三角哲彦(目黒蓮さん)という男性が現れます。彼は、小山内の娘・瑠璃は、三角がかつて愛した同じ名前の正木 “瑠璃”(有村架純さん)と共通点が多いと告げ、正木瑠璃と過ごした日々を語り始めるのですが……。
【愛する人に会うために生まれ変わる!】
生まれ変わりをテーマにしているラブファンタジーであり、「生まれ変わって、あの人のそばに」というヒロインの愛がさまざまな人に影響を及ぼした物語でもある……とても不思議な愛の物語でした。
小山内の娘・瑠璃は、母のお腹にいるときから「私の名前は瑠璃にしてほしい」と夢を通してお願いをするんです。そして「瑠璃」として、両親に愛されて成長していきます。
小学生になった瑠璃は、1人で高田馬場のレコード店に行き、その店で古い恋愛映画をを鑑賞したり、誰も教えていない英語の歌を口ずさんだりするように。
そして高校生になると、「三角哲彦」にそっくりの男性の絵を懸命に描き始めます。
つまり小山内の娘・瑠璃は、三角が愛した正木瑠璃の生まれ変わりだったのです!通っていた高田馬場のレコード店は、かつて三角が働いていたお店でした。
【ミステリアスな瑠璃の愛】
三角が小山内に語った正木瑠璃との日々は、三角の方が熱烈に恋をしていたように見えました。「ずっと一緒にいたい」と三角が言っても、瑠璃はつれない返事で帰ってしまうんです。
私は「瑠璃は何を考えているんだろう」と思っていたのですが、本当は彼女の方が三角を強く求めていたことがあとからわかります。
両親を亡くし、親戚の家をたらい回しにされて育った正木瑠璃は「愛されたい」願望が強かった。だからストレートに愛を告げてくれる三角のことを大切にしたかったのですが、それができない事情があったのです。
その先は映画館でぜひ観てほしいのですが、瑠璃の私生活の不幸が彼女の運命を狂わせてしまうんです。
だから、彼女は生まれ変わり「新しい人生では愛する人と幸福になりたい」と強く思ったのかもしれません。
母のお腹にいるときに「瑠璃」という同じ名前をつけてほしい願ったのは、彼に見つけて欲しかったのではないでしょうか。
【強く思えば生まれ変わる】
「人は強く念じていれば生まれ変わる」というこの作品の描く世界、私は肯定したい派。次の人生について妄想できるなんて嬉しいじゃないですか。だから好きな世界観です。
ただ本作は、正木瑠璃と小山内瑠璃以外にも生まれ変わりが隠されていたり、瑠璃の過去と小山内の妻子の死がサスペンスタッチで描かれていたり、少々複雑です。
個人的には瑠璃と三角の純愛が良かったので、正直ふたりの恋愛に絞って欲しかったというのが本音です。
三角と瑠璃の出会いから結ばれるまでのプロセス、ふたりで過ごした日々は、有村架純さんと目黒蓮さんの好演もあり、本当に美しくて素敵だったからです。
【シリアスな大泉洋を堪能】
俳優陣はとても良かったです。
特に大泉洋さんは、笑顔が溢れる幸福な日々から一転、妻子を亡くして笑顔が全く見られなくなります。生まれ変わりの話を信じられない現実的な性格ゆえに、妻子を亡くした過去と向き合うことが辛くて仕方がない小山内。そんな男を演じるシリアスな大泉洋さんの魅力を存分に堪能しました。
そうそう、小山内と梢、この夫婦の物語にもある秘密が隠されています。小山内と梢の恋愛のきっかけは本作のほっこりエピソード。
悲しみにくれる小山内の心を愛で満たし、観ているこちらも救われた気持ちになりました。
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2022「月の満ち欠け」製作委員会
『月の満ち欠け』
(2022年12月2日より全国ロードショー)
原作:佐藤正午「月の満ち欠け」(岩波書店刊)
監督:廣木隆一
出演:大泉洋、有村架純、柴咲コウ、目黒蓮、田中圭、伊藤沙莉、菊池日菜子、寛一郎、波岡一喜、安藤玉恵、丘みつ子
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