[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品を
ひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、フランスで2011年最大のヒット作となり、東京国際映画祭でもグランプリを受賞したヒューマンコメディ『最強のふたり』です。評判の良さは聞いていましたが、正直「これほどとは!」。記者は笑いのツボと涙腺を刺激されまくりでした。本作はユーモアが人の心を繋ぐことに加え、身体障害者と付き合うことの真実が描かれた映画でもあるのです。
事故で全身マヒに陥った大富豪のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)は、介護士の面接で一風変わった黒人青年ドリス(オマール・シー)に出逢います。最初から本音で接して来るドリスに興味を持ったフィリップは、彼を介護士として雇うことに。趣味もライフスタイルもまったく違う二人ですが、フィリップはドリスと出逢って、生きる喜びを見出していくのです。でも二人の付き合いに永遠はありませんでした……。
本作はエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュ(共同監督)が、2003年に見たドキュメンタリーを映画化したものです。全身麻痺のお金持ちのもとにやってきた粗野な若者ドリス。でもフィリップの顔色を伺い、腫れものに触るように接してきた周囲の誰よりも、ドリスはフィリップの心に近づきます。アートと言われる絵画を見て「鼻血じゃね?」と言い、フィリップのワガママな子供を本気でしかり飛ばし、ワゴン車の荷台にフィリップを車椅子ごと乗せてくれというスタッフに「そんな馬みて~なことできねえ」と高級車の助手席にフィリップを座らせるドリス。特別扱いされてきたフィリップと普通に接することで、フィリップは生活を楽しめるようになり、ドリスと丁々発止の会話をするようになり、何より笑顔が増えるのです。
かの「24時間テレビ」でさえ、ドリスみたいに健常者と障害者の垣根がもともとない人っていたかなと。みんな力になりたいとは思っているけど、どこか弱い人を助けたいという上から目線のスタンスだったのでは? と。それは自分にも言えること。それに気づかせてくれたドリスの人としての奥深さに感動してしまいました。
またドリスを演じたオマール・シーが素晴らしかったです。下品なジョークを言っても、彼はどこか品があり、深い人間性を感じさせるので、決して汚らしい言葉にならない。フィリップと一緒に笑い、なごやかな気持ちにさせてくれるのです。彼はこれから来ますよ~、ハリウッドも大注目だそうですが、それも納得。あの笑顔は忘れられません!
そしてドリスが最後にフィリップに準備したプレゼントがまた素晴らしくて。これが実話だなんて素敵すぎる!この映画を見た、ご本人さん二人、フィリップとアブデル(役名はドリス)。フィリップは「こんな状態になり何年も鏡を見るのをやめていたけど、久しぶりに自分の瞳を見たよ」と。その瞳には涙が光っていたそうです。そしてドリスことアブデルは「俺が黒人になっている!」と彼らしいジョークを監督に告げたそうです。フィリップ本人は監督に「コミカルに描いてほしい。ユーモアを含めてこそ真実に近づくのだから」と映画化前に伝えたそうですが、ユーモアで二人を繋ぎながら、本作は人と人との出逢いが幸福を招くこともしっかり描いています。ぜひ多くの人に見てほしい、チャーミングで感動的なフランス映画の傑作です。
(映画ライター=斎藤 香)
『最強のふたり』
9月1日公開
監督: エリック・トレダノ
オリヴィエ・ナカシュ
出演: フランソワ・クリュゼ、オマール・シー、アンヌ・ル・ニ、オドレイ・フルーロ、クロティルド・モレ、アルバ・ガイア・クラゲード・ベルージ、トマ・ソリヴェレ、シリル・マンディ、ドロテ・ブリエール・メリット
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