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4月に観るのにふさわしいジブリ作品『魔女の宅急便』。なぜって、この作品には新しい土地で知らない人たちとうまくやっていく「お作法」が満載だから。挨拶をハキハキとしたり、自分のできることで周りを助けて喜ばれたりして、少しずつ仲間を作っていく……。ね、4月にふさわしいでしょ?

そんなことを思いながら観ていましたら、にしんとカボチャの包み焼きが作りたくなってしまいました。せっかく主人公のキキが、宅急便の依頼をしてくれたおばあさんを手伝って作ったのに、おばあさんの孫娘に「私、このパイ、きらいなのよね」と言われちゃうお料理です。

あのパイの何が悪いのかしら。とってもおいしそうなのに。ということでリサーチをして作ってみましたよ!

●『魔女の宅急便』の舞台はストックホルム&ゴトランド島らしい
ジブリのサイトによると、参考にしたのはスウェーデンのストックホルム、バルト海のゴトランド島ヴィスビーの町とのこと。

また、時代は飛行船が飛び始めたばかりで、かつ電気のオーブンがある頃。飛行船が飛び始めたのは1925年くらい。また電気オーブンが最初に商品として量産されたのは1891年。おばあさんが、電気のオーブンを「古くなった」と言っていること、電気オーブンを買う前は備え付けのまきオーブンを使っていたことから考えると、1920年代〜1930年代前半が舞台だと考えられます。

●スウェーデンの食文化
スウェーデン&ニシンと言えば、あの世界一臭い缶詰と言われる発酵したニシンの缶詰シュールストレミングが有名。まさか、いくらなんだって世界一臭い缶詰のニシンを入れたお料理ではないでしょうが、スウェーデンではニシンがたくさんとれるようです。

●なぜ孫娘は、おばあさん特製「にしんのパイ」が嫌いなのか?
でね、記者が気になったのは、あの孫娘の言葉。何しろ『魔女の宅急便』では、キキは焼くところしか手伝っていないので、中に何が入っているのかわからない。

何があの孫娘に、まったく見ず知らずのキキに対してまで「私、このパイ、嫌いなのよね」と言わせたのか……。

記者が立てた仮説は、以下です。
1. ニシンは小骨が多いのに、おばあさんがいつも小骨をきちんと取りきっていないので食べにくいから嫌い
2. ニシンの下処理がいつも悪くて、パイが生臭いから嫌い
3. たくさん取れるニシンをしょっちゅう食べさせられて飽き飽きしているから、パイも嫌い
4. 味自体に癖がある

でも、たぶん1、2はないでしょう。おばあさんだって、自慢の手料理だというからには、他の人から好評価だったこともあるはずですし。またニシンの味は、そこまで癖があるわけではないので、3もちょっと微妙。

●「19世紀ドイツ移民の酢漬けニシンとカボチャのパイ」がモデルに?
そこで実際に「ニシンとカボチャのパイ」としてどんなものが作られているのかと調べようとレシピをネット上で探してみました。でも、英語で検索しても不思議なことにほとんどが「ジブリ」とか「キキ」とか付いているんです。そして、ジブリやキキという言葉がついていなかったものは「19世紀ドイツ移民の酢漬けニシンとカボチャのパイ」というもの。

もしや……これでは? 酢漬けだったら「嫌いなのよね」という人がいてもおかしくないし。それから、ニシンは春が収穫期。『魔女の宅急便』のあのシーンは初夏から夏のようなので、冷蔵技術がそう発達していなかった当時なら、大量にとれるニシンを保存のきく酢漬けにしていてもおかしくない! しかも、調べてみたらスウェーデンって酢漬けのニシンをよく食べている!

●ニシンがスーパーに置いていない!?
実は今回、酢漬けのニシンを使ったのは別の事情も……。日本でもニシンは昭和33年まではたくさんとれていたようなのですが、乱獲の影響や気候変動などの理由から、今やあまりとれなくなっているそう。ニシンのとれるはずの春なのに都内のスーパーに行っても、まったく置いていないのです。でも、ニシンを入れずして「ニシンとカボチャのパイ」とは言えない! 

ということで記者は今回、酢漬けニシンを使って作ってみましたよ!

【材料】(2人分)
・ 酢漬けニシン 6枚程度
・ かぼちゃ 1/8
・ エリンギ 80g
・ タマネギ 1個
・ とろけるスライスチーズ 2枚
・ 薄力粉 40g
・ 牛乳 500cc
・ 冷凍パイシート 4枚 
・ 塩こしょう 適量
・ コンソメ 小さじ
・ 黒オリーブ 16個
・ バター 大さじ3
・ オレガノやバジル 適量

ニシンの酢漬けは、岡山名産のままかりにちょっと似たお味です。もし、酢漬け全般があまり好きではなく、孫娘の気持ちがわかりそうになってしまったら、タラで代用するのがおススメ。その場合、骨と皮をとって、バジルやオレガノを多めに振って使ってください。

【作り方】
1. かぼちゃを電子レンジに皮付きのまま入れて5分加熱。その後皮を取り、一口大に切る
2. タマネギとエリンギをみじん切りにし、大さじ2杯分のバターと塩こしょうでよく炒める。
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3. 2の火を止め、薄力粉、牛乳、コンソメを入れてよく混ぜ、加熱する。ソースが固くなりすぎるようだったら牛乳をたす。

4. 3にカボチャとニシンの酢漬けを投入。混ぜながら加熱し、塩こしょうで味を整える。ニシンの生臭さが気になる時は、オレガノやバジルを適宜加える。
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5. グラタン皿にバターを塗り、パイシートをそれぞれ4/5分使って、グラタン皿に敷く。
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6. 5をオーブンやトースターで少し膨らむまで加熱。
7. 6に4を加え、上にちぎったチーズをのせる。
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8. 7にパイシートをそれぞれ4/5使って、ふたをする。
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9. 残ったパイシートを魚の形、短冊上に切り、オリーブも使って飾り付ける。
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ちなみに、魚の形はなるべく大きくした方がいいです。焼くと縮みます。小さめにすると、完成した時にものすごくかわいらしくなってしまいます。この飾り付けが思いのほか難しく、おばあさんが「自慢の手料理」と言ったのは、見た目が美しく作れるからなのではないか、と思うほど。

10.200℃に予熱したオーブンで20分焼いて完成!

このパイ、キンキンに冷えた白ワインに本当に良く合います。酢漬けの食品が好きな人なら、病み付きになってしまい、あの孫娘の手からパイを奪い取って食べたいような気持ちになるはず! ぜひ皆さんも、白ワイン片手に『魔女の宅急便』を観ながら、「にしんとカボチャの包み焼き」を食べて見てください。

(文、写真=山川ほたる
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