福島の原発事故関連の描写で「風評被害を招く」など批判が続出、現在ちょっとした騒動にまで発展している漫画「美味しんぼ」。
問題になっているのは「ビッグコミックスピリッツ22・23合併号」(4月28日発売)に掲載された、福島第1原発の見学から帰ってきた主人公および登場人物たちの体調面に関する描写です。
突然、原因不明の鼻血を出した主人公。医者から「福島の放射線とこの鼻血とは、関連づける医学的知見はありません」といった説明を受けるものの、そのほかの登場人物らも倦怠感をおぼえるなど、皆次々に体調不良を訴えます。
その後、双葉町元町長井戸川克隆さんが実名で作中に登場、「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」と語る場面で物語は幕を閉じるわけなのですが、このことに対し福島県双葉町が小学館へ向け正式に抗議文を掲載。
「現在、原因不明の鼻血等の症状を町役場に訴える町民が大勢いるという事実はありません。第604話の発行により、町役場に対して、県外の方から、福島県産の農産物は買えない、福島県には住めない、福島方面への旅行は中止したいなどの電話が寄せられており、復興を進める福島県全体にとって許しがたい風評被害を生じさせいるほか、双葉町民のみならず福島県民への差別を助長させることになると強く危惧しております」(原文ママ)
これに対し、「ビックコミックスピリッツ」編集部は、「5月19日発売の25号とホームページに、特集記事で識者の見解や批判を掲載する予定である」と、ツイッター上にて告知。
また「美味しんぼ」著者である雁屋哲さんは5月4日、この件に関して、自身のブログを「反論は、最後の回まで、お待ちください」という題で更新。「ある程度の反発は折り込み済みだったが、ここまで騒動になるとは思わなかった」と前置き、その後次のような見解を述べています。
「私は批判している人たちに反論するべきなのだが、『美味しんぼ』福島篇は、まだ、その23、その24と続く。その23、特にその24ではもっとはっきりとしたことを言っているので、鼻血ごときで騒いでいる人たちは、発狂するかも知れない」
「私は自分が福島を2年かけて取材をして、しっかりとすくい取った真実をありのままに書くことがどうして批判されなければならないのか分からない。真実には目をつぶり、誰かさんたちに都合の良い嘘を書けというのだろうか。……(途中省略)私は真実しか書けない」(原文ママ)
・これに対して福島県人はどう思っている?
一連の騒動に対して福島県出身の記者としての個人的な見解を述べるならば、「どちらが正しいともいえない」、このひと言に尽きます。
自分が見聞きしている限りでは、実際に鼻血が出た・倦怠感があるなどの症状を発症している人は、同県在住の家族および友人・知人には、今のところひとりもおりません。しかし、私の預かり知らぬところでは実際にあるケースなのかもしれないし、雁屋さんにとってはこのことが、実際に目のあたりにした「真実」なのでしょう。
また、福島県郡山市に住んでいる女性(33 / 会社員)にこの件について聞いてみたところ、
「……真実ではないので、誤解を与える発言はやめてほしい。鼻血出てないし(笑)でもぶっちゃけ、何言われてもどうでもいい。別に何か変わるわけでもないし。“美味しんぼ” になんのうらみもない。書きたきゃかけば? みたいなところはある。もし、それが真実だとして、で、何かあんの? って思うし」(取材める)
物事にはありとあらゆる側面があり、どこか1面だけが真実ではないと、記者は考えます。だからこそ、雁屋さんが受け止めた「福島の現実」がこの後どのような展開を迎えるのか、この目で確かめてみたい。今はただ、そう思うばかりです。
参考元:双葉町公式ホームページ 、雁屋哲の今日もまた 、スピリッツ編集部ツイッター
執筆=田端あんじ (c) Pouch
コメントをどうぞ