他人とプライベートな付き合いをするうえで、最も重要な要素のひとつ。それは、「笑いのツボが同じかどうか」である。
恋愛において、お互いの笑いのツボが違うというのは致命傷だ。一緒に楽しんでいるはずの状況で、自分は爆笑しているのにフと相手を見たらスゲー真顔(むしろ引いている様子)だった場合を想像してほしい。百年の恋も冷める……とまではいかずとも、相手との今後になんとなく不安がよぎるだろう。
そんな不安や絶望を抱くのを阻止してくれるのが、新橋にある居酒屋『かがや』である。軽く調べたところ、このお店に行った人はもれなく「狂気」「異次元」「(ツボに)ハマれば楽しい」と評していた。どういうことだ? よく分からないが、なんとなく「気になる異性と笑いのツボが同じかどうか」を確認するためにうってつけのお店のような気がする……というか、どんな店なのか普通に気になる!!
ということで、なんかスゴイらしいエンターテインメント居酒屋『かがや』さんに、気になる異性と一緒に行ってきました。一体どんなお店なのか? そして、気になる相手の反応は……!?
【パフォーマンスも店主のテンションも、何もかも予想してもムダ!!】
記者(私)が気になっている相手は、フリー素材サイト『ぱくたそ』のモデルをしているドイツ人ハーフのマックス江崎さん。記者が「一緒に新橋の『かがや』に行きませんか?」と誘ったところ、「そのお店、海外でも有名だよ! 一度行ってみたかったんだ! うれしい!!」と興奮気味。
その数日後。マックスと『かがや』に訪れたのですが、まず「看板」に戸惑った記者。地下にあるお店ゆえか、路上と、地下に通じる階段の天井部分に看板(案内)があります。
その案内に書かれた「KAGAYA FROG IS STRANGER THAN FICTION」(カエルは小説より奇なり)を見て、店内の床に大量のカエルが放し飼いにされている絵が浮かび一抹の不安を感じたのですが、
店内は狭いながらも清潔感があり、生きたカエルの毒々しいイメージとは正反対。しかも、私たちが予約していた席以外もすべてお客さんで埋まっている人気ぶり!
【第1ステージ:着席したら引き返せない】
席に着き、「なんか肩すかし感が……」「でも、西欧系のお客さんが宴会していますよ。本当に海外でも人気なんですね」などと話していたところ、トーン高めの声で「始めてよろしいでしょうか」とマスターが物腰柔らかく尋ねてくださったので「始めるって何をだ」と思いながら「はい」と答えた、その瞬間!!
「いらっしゃいませどうぞ~ぉぉおっ!」の号令らしきもののあとに、手拍子つきで、なかにアンコを詰められたパンが主役の某アニメの主題歌を熱唱しだすマスター! そして現れたのは幼稚園児くらいの大きさがある例のパンのロボット! その頭上にはおしぼりが! 「~~だけが友達さーー!」と熱唱を続けながら「はやく上のおしぼりを取れ」みたいな合図をしてくるマスター! そして、突然「君だよー!!」と、記者の顔面ギリギリまで近づいてくるマスター! 「君もだよー!!!!」と、ほかのお客にも絡むマスター! その後、よく分からない歌を口ずさみながら去るマスター……。
どうやら、これがおしぼりを渡すためだけに行われる儀式のようです。ビックリしたのと爆笑したのとで、すでに息切れを起こしてしまった記者。
【第2ステージ:注文したら終わりの始まり】
儀式が終わった後、なぜか「ジャポニカ学習帳」の「かんじれんしゅう」と「さんすう」を渡されキョトンとしていたら「メニューです」と真顔で一言。
確かに、かんじれんしゅうの方にはドリンクメニューが、さんすうの方には料理(コース4つのみです)の名前が手書きされています。
我々が選んだコースは
「マスター今日はいつもよりふんぱつしてさ、なんていうのかな、ごうかなかんじで。『ダーン』みたいなさ」(メニュー表より引用)
記者が「マスター(中略)みたいなさ、でお願いします」と注文したところ、
「ぜんっぜん気持ちが伝わってこない! 全然! 完全な棒読み!! もうちょっと気持ち入れないと!!」と、居酒屋でメニュー名を読みあげるという至極普通なことをしただけなのに、まさかのダメだし! 「あなたは女優! 『ガラスの仮面』を被りなさい!」みたいな圧力をかけてくるので、記者ももうヤケクソになり芝居風な口調で再度注文!
記者 「マスター」
マスター 「どうした? なに? なに?」
記者 「(え!? この人お芝居参加するの!?)……今日はいつもより奮発してさ」
マスター 「おお、いいねー!」
記者 「なんていうのかなー」
マスター 「おお」
記者 「うーん、豪華な感じで」
マスター 「うんうん」
記者 「ダーン! みたいなさっ!」
マスター 「分かったよ、コイツぅ!」(ビシ!)
読み上げたら、指で思いっきりデコを押された記者。その後、「では失礼します」と言い、ものすごく普通のテンションで去るマスター。注文は受けてくれた模様。
【第3ステージ:かがやの真髄】
ここら辺から「かがやワールド」という異世界に馴染んできた記者ですが、楽しくて笑いすぎてしまうせいか異常に疲れる。酒がないとムリ。……ということで、ビールを注文(こっちは小芝居しなくてOK)。すると、すかさず「持ってき方は?」と聞いてくるマスター。
サーブの仕方にまで、かがやワールドが広がっていました。「アメリカ」「日本」「中国」「イギリス」「ブラジル」「フランス」の6つです。なんとなく「フランスで」とお願いした記者。その数分後……
官能的な音楽(ほかのお客さんから「エクセルシオールかよ」とツッコミが入る)とともに現れたマスター。ベレー帽を被り、イーゼルを持っている姿は「芸術の都だもんね」と納得できるのですが、シャツの胸元が絶妙な塩梅で開いているなど妙にエロティック。
記者を情熱的かつ官能的な瞳で見つめるそれは、まさにフランスのイメージ。その瞳を保ったまま、記者の前にイーゼルを立て紙に何かを描きはじめたマスター。ほかのお客さんの「おー! 似てる! メチャクチャ似てる!」「すげぇ!」の声で何をしているのか予想はできましたが、
やっぱり似顔絵を描いてくれていました。ちなみに、描いていただいた絵はマスターのキスつきです。(なお、男性客の似顔絵にはキスなしの模様)
ほかの国もお願いしましたが、アメリカだけは「今日はもうやっちゃったから」という理由で却下。それも笑えちゃうのが、かがやクオリティです。
【第4ステージ:コース内容と意味不明なドリンク】
お酒を飲むまでに、店に着いてから約30分かかりました。しかも、マックスに渡されたビールのグラスは持ち上げるとブルッブルに振動しまくる装置つきでメチャクチャ飲みづらいという誰得な仕様。
箸置きは子供用玩具。客が好きなものを選び、マスターがそれぞれの玩……箸置きに合った形で箸を置いてくれます。
料理は比較的すぐにサーブされます。我々が頼んだコースの料理は、サラダ、大根の煮つけ、肉団子、切り干し大根、サバの味噌煮、そして最後にカレーライス。
奇抜なパフォーマンスとは真反対と言っても過言ではない、とても家庭的でほっこり安心する味付けです。もちろん美味しいのですが、めちゃくちゃ美味い! というよりも、久しぶりに帰省して味わう母の手料理のような安心感が強い。
お酒がなくなったのでドリンクメニューを眺めたところ、
「埼玉県人 54円」「地底人 時価」「宇宙人 1億円」という謎のドリンクが! とりあえず埼玉県人を注文したら「不味いよ。すごく不味いよ」とマスター。そう言われたら飲みたくなるのが人というもの。「大丈夫です!」と注文。
到着した埼玉県人は、まず酸っぱさを感じ、そのあとにカラさがくる少し生臭いドリンクでしたが、記者は普通に飲めました。
しかし、マックスは「クソ不味い」「最悪だ」を連呼。記者の味覚がオカシイみたいです。
【パフォーマンスに圧倒されて忘れていたけど、肝心の気になる相手の反応は!?】
マックスが英語ペラペラで見た目は完全にドイツ人だったからでしょうか。記者との会話は少なく、ほかの外国人のお客さんと英語で話し和気あいあい。しかも、次々に繰り出されるパフォーマンスに対して基本、苦笑い。私は爆笑していたのに! 何だコイツは! 笑いに関しては合わない! マックスへの恋愛感情は消えた記者。そして、彼は、仲良くなった外国人(男性)と一緒に夜の街に消えていった……
マックスに関しては酷い目に遭った記者ですが、『かがや』は最高におもしろい居酒屋なので癒しと笑いを求め再訪を誓いました。本気で好きになったり付き合ったりする前に『かがや』さんに「気になる人」を連れて行くのは、まさしく試金石になるでしょう。
いや、そういう楽しみ方をするお店ではありませんが。
【総括】
マスターのパフォーマンスが光りすぎる店。……というか、マスターも客も主役な唯一無二の居酒屋『かがや』。仮にパフォーマンスがお気に召さなくても、料理でほっこりできるので安心です。いや、逆にその落差に驚いてしまい安心できないかも。
マスターのお名前はマーク・カガヤ。英語が堪能な方なので、もしかしたらハーフなのかも知れませんが、詳細は謎です。「なぜ、このスタイルでお店を切り盛りするようになったのか」も謎です。
この店……というか、マスターのノリが理解できないのであれば非常に残念だと記者は思います! そう、「真実は小説より奇なり」なのです! まるで小説レベルの非日常を味わいつつ、料理で癒され、たまに現実にカエルという貴重な経験をしてみたいと思った方は、新橋『かがや』に足を運んでみてくださいー!
■ショップデータ
店名:加賀屋 (かがや)
TEL:03-3591-2347
住所:東京都港区新橋2-15-12 花定ビル B1F
営業時間:18:30~翌3:00
定休日:不定休
公式サイト:かがやへようこそ
取材・撮影・執筆=シマヅ (c) Pouch 元・少し好きだった友人=マックス江崎
▼メニュー名。
▼持ってき方。「日本」
「中国」
「ブラジル」
「イギリス」
「アメリカ」(たぶん)
コメントをどうぞ