今日は仕事で後輩女子がミスをやらかし、かばおうと思ったけど火の粉がこっちに降ってくるのも、と思って無視した。いつから私はそんな風になってしまったんだろう。
こんな日は成城石井でちょっと高めのお惣菜を買って、ビールでも飲みながら、騒がしいバラエティを見よう。と思いながら会社を出ようとすると、1通のLINE通知が。
差出人は最近やたらとSNSでサウナサウナ騒いでいる女の先輩。先日は恵比寿のオシャレカフェで小1時間熱くサウナの気持ちよさについて語られたんだった。
サウナ女子「今から新宿で飲まない? おごるよ」
うーん、今日は1人飲みモードだったけど、おごってくれるなら……ということで、丸ノ内線に乗り、新宿3丁目で待ち合わせをした。
久しぶりに会った先輩は、にこにこしながら「いい店あるから」と歌舞伎町方面に歩きはじめた。
「ここだよ~」
四角い建物の前でにこやかに微笑む先輩。建物にはでっかく「テルマー湯」の文字が。
「えっ!? 湯!? 飲み屋じゃなくないですか!?」
だ、騙されたー! てっきりメンズとのデートでは食べられないニンニクたっぷりアヒージョ的な、ちょっとおしゃれだけどあんまり気取ってないんです私達~。あ、バゲット追加で~、みたいな妙齢女子飲みを想像してたのに。
「ここで飲もう! 中にレストランも入ってるからさ」
「えっ、お風呂入るんですか? なんも持ってきてないですよ!」
「大丈夫、メイク道具以外は全部あるから! ちょっとだけ、ちょっとだけいこ!」
と、半ば強引に入店させられてしまった。
入るとそこはきれいで広いエントランス。心なしかイイ女のにおいがする……。しかも、驚いたことに館内着が3種類(岩盤浴用含め)もあり、デザインもかわいい。この時点で非日常にちょっとだけウキウキしてくる私。
「とりあえずさっぱりしてからビール飲もっか〜」
ということで、お風呂に向かう我々。
とりあえず体を洗い、ゆっくりとぬるめの炭酸泉に入る。次はどのお風呂にはいろうかな~と思っていたら、パイセンの姿がない。
露天風呂に行くとそこには、椅子に座って目を閉じ、恍惚の表情を浮かべるパイセンが。
「ほあ~~~今、サウナと水風呂でととのったとこ~。あ〜、宇宙が見える〜〜〜。あれ、まだととのってないの?」
いつもはしっかりとしたキャリアウーマン風情のパイセンが、完全にフニャフニャになっている……。上気した肌、赤くなった唇、潤んだ目。たっぷり汗をかいてつやつやした顔。そしてなによりも、気持ちよさそうな表情……。私は困惑しつつも、正直に言うと、初めて見る痴態に少しドキドキしていた。
「一緒にサウナはいろうよ。無理に我慢しなくていいし、水風呂も入らないで、顔に水かけるだけでいいから。冷やすと毛穴も引き締まるらしいよ!」
「けっ、毛穴!!!!(最近気になる……)」
フニャフニャしているパイセンと共にサウナ室へ。テルマー湯のサウナはそんなに高温じゃないそうだが、私にしてみるとずいぶん熱い。岩盤浴とは大違いだ。
「やっぱ熱いっすね」
「熱いよね。そんな時はTVや、周りの人を観察して気を紛らわそう!」
サウナ室内のテレビではダイエットの特集をやっていた。サウナ室内の女性陣は新宿という土地柄か、キレイな人が多い。それぞれストレッチや小顔体操をしている。
「すごいね~もう6分もいるよ。体は熱くなった?」
「ほんとだ! 意外とあっという間でした。なんか体の表面が熱い! でも表面だけじゃなくて体の内側からあったまってる感じ……」
「いいねー! じゃあ、ぬるいシャワーで汗流してから、水風呂いこっか!」
正直かなり体が熱かったので自然と冷たさを欲していた。先輩に誘われるがまま、初めての水風呂に挑戦することになった。水風呂には19℃の表示。サウナ好き的にはそんなに冷たくはないらしい。
まず足にちょろちょろかけてみる。次に心臓より下。冷たい。首にかける勇気はなく、顔にパシャパシャしてみた。恐る恐る人生初水風呂の洗礼を受けている私を横目に水風呂にすっと入っていくパイセン。「アァ……」と何やら卑猥な声が漏れ出ている。
「そうそう、最初は無理しなくていいからね……。ハァ〜〜〜、気持ちいい……」
最初は足と顔だけ……と思っていたが、ここまで来たら、女子たるもの入らずにいられようか。それに何より先輩の恍惚とした表情……。
「いや、入ります! 水風呂、入ってみます!」
「そう? じゃあ、ほら、ゆっくりおいで……そう、ゆっくり息を吐きながらこっちに進んできて……肩まではいれたね……いいよ、いいよ……」
「って、冷てえええ!!!!!」
すぐに飛び出る。でも、あれ??水風呂から出ても寒くない!! すごいゾクゾクする?足もビリビリする?血管が動いてる? 体が反応してる!? 私、生きてる!?
「あはは! 最初はそんな感じだよね。サウナと水風呂の後は外気浴で大休憩してととのうんだよ~」
「ととのうってなんですか?」
「ととのうっていうのは、ディープリラックスするってことだよ! ちょっと横になってみな」
「へ、へえ~」
露天風呂の横のチェアでタオル1枚、ほぼ素っ裸で寝てみた。解放感しかない。ぼーっと目を閉じていると、体がなんだかポカポカしてきて、いままで行ったリゾート地の記憶が走馬灯のように巡った。 天国に行く前はこんな感じなのかしら。
「いいねいいね、ととのってるね~! さらにすごい体験させてあげるから、お風呂あがろう」
えっ、すごい体験……? 今まだふらふらなんだけど! と思いながらも館内着を着てエレベーターにのせられ、さらに4階へと続く階段を上がった。そこは休憩室になっていて、座椅子やゴロンと横になれるソファがある。
パイセンはずんずん歩いていき、現代芸術のオブジェのようなものの前に立った。まるでつるされた鳥の巣のような、その形に最初は椅子だと気づかなかった。
「座って」
「はっ、はい!」
不安定な形の椅子にドキドキしながら体を預けると、ゆらゆらと揺れて、ここはどこ、私は誰状態に。ディープリラックスが加速してゆく。
「この椅子に座ってるとお母さんのおなかの中みたいだよね。記憶ないけど。この椅子は都内最強のパワースポットだと思うんだよぉ~~~。あはぁ~~~。
しかも、テルマー湯は美肌ジュースバーに、マッサージ・エステ、エスニックと和食のレストランもあって、お風呂以外の施設も充実してるんだ。デートや女子会にもピッタリでしょ」
(おお・・・急に何かが乗り移ったようにアピールし始めた!)
「は、はひ~~よくわかんないすけど、今気持ちいいです~~~!!!」
「よし。じゃあビール飲もう!サウナで汗かいた後のビールは、軽く絶頂を迎えるくらいおいしいよ」
いそいそとレストランに行き、ビールをオーダー。二人とも、無言で乾杯。
熱された体に、染みわたる黄金色の液体。冷たい炭酸がのどを通り過ぎていく感覚。これはさっきの水風呂でのどが冷やされる感覚と似ている!
「……サウナ後のビール、気持ちいいです」
「良かった!またゆっくり来ようね! 岩盤浴の料金を払ったら屋上のプレイエリアにも入れるんだけど、さっきのユラユラした椅子とか、セグウェイとかあって楽しいし、1日いられるよ(ニコニコ)」
今回はサウナと水風呂にそれぞれ一回だけ挑戦してみたけど、 本当は数回繰り返すことでさらなるディープリラックスが得られるらしい。 パイセンはそれを「12分3セット」「7分5セット」などと呼んでいた。なんのこっちゃ。
ギラギラした歌舞伎町のネオンと、近くの席から漂うエスニックな香りに 刺激され、ガンガン注文するうちにそのことは忘れてしまった。その時はまだ、思ったよりも早くサウナルーティンを体験することになるとも知らずに……。
【今回のサウナ】
店名:新宿天然温泉テルマー湯
住所:東京都新宿区歌舞伎町1丁目1−2
営業時間:午前11時~翌日午前9時
石けん:シャンプー、リンス、ボディソープ、洗顔、化粧落とし(DHC / クラシエ)
その他:ボディタオル、歯ブラシ、ヘアゴム、ヘアキャップ、くし
ドライヤー:無料
アイロン:ストレート、カールあり
執筆=サウナ女子 / イラスト=百村モモ (c)Pouch
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