【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が最新映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、レビューをします。

今回ピックアップするのは映画『羊の木』(2018年2月3日公開)です。『桐島、部活やめるってよ』で日本アカデミー賞ほか各映画賞を受賞した吉田大八監督作で、主演は関ジャニ∞の錦戸亮。

これがヒトコトでは言えない風変わりな作品なのですよ。では物語から。

【物語】

さびれた港町、魚深市(うおぶかし)の市役所に勤務する月末一(つきすえ はじめ / 錦戸亮)は、上司から「元受刑者を魚深市が受け入れることになったから、彼らの面倒をみてほしい」と言われます。

元受刑者は男女6名で、全員が元・殺人者。ワケあり感が言動に現れており、一緒にいてもどこか胸騒ぎがする月末。そんな中、宮腰一郎(松田龍平)だけは、社交性があり明るく朗らかでした。

ところが宮腰は、月末が片思いをしている同級生・石田文(いしだあや / 木村文乃)と付き合い始めてしまうのです。

【殺人者との共存について考えてみる映画】

「殺人を犯した人と過ごすことができますか? 受け入れることができますか?」と聞かれたら、皆さんはどう答えますか? この映画は全編ずっとそう問われているような気がしました。

もしも自分が月末だったら、平静を装いつつも、どこか「怖い」という気持ちは抑えられないでしょう。この映画を見て、そんな風に思ったのは、6名の描写が素晴らしかったから。床屋の福元(水澤紳吾)がカミソリを手にすると恐怖を感じますし、クリーニング屋の大野(田中泯)と目が合うとゾッとしますし、釣り堀屋の杉山(北村一輝)にからまれたら緊張するでしょう。

彼らは全員、どこか危ない。何をしでかすかわからない危険人物に見えてしまう。でも何もしていないのにそう見えてしまうのは「あの人は殺人者だから」という色眼鏡で見ているからかもしれません。

でも月末は、恐怖をうっすら感じながらも、6人を殺人者ではなく「この町に引っ越してきた人達」として接しようと努力するのです。「月末、エライ」「月末、がんばれ」と思いましたよ。月末は彼らを受け入れようと一生懸命だからです。

【思いがけない展開でラストまで突き進む】

映画が進むに従って、魚深の住民と深い交流を築く元受刑者もいるし、自ら壊してしまう人も出てきます。そして明らかになる彼らの真実と、新たに起こる殺人事件!

静かな港町をじわじわと揺らしていく6人の中で、ついに牙をむいた殺人者が暴走し始めるのです。

月末が必死に何とかしようと行動に出る後半からは、怒涛の展開! サイコパスの殺人はこのように、ふとしたきっかけで突然起こるものなのだと、リアルな殺人プロセスを見るようでした。

【錦戸亮、役者としての豊かな才能】

また月末、文、宮腰の三角関係もこの映画のアクセントになっていました。

宮腰に嫉妬した月末が文に「相手のことよくわかっていないのに、よく付き合えるな」と聞いたとき、文に「月末はわかっているの?」と返され、彼はギクっとします。月末がわかっているのは彼のプロフィールだけ。本当のことを知らないのに「元殺人者」という過去でその人自身を語ろうとすることに疑問を抱き、悩む月末。そんな月末を演じた錦戸亮、すごく良かったです。

彼の良さは、映画の中の住人としてちゃんとそこにいること。「錦戸亮が演じています」ではなく「生まれ変わって月末になりました」みたいな感じがするんですよ。この映画を見て、もしやジャニーズでトップクラスの演技派では! と思いました。

デート映画でもないし、友だちとワイワイ見に行く映画でもない。一人で見て不気味さに浸る……というのもたまにはいいかも。「そんなんヤダ、怖い」という人は、ぜひお友だちや彼氏と見てくださいね。




執筆=斎藤 香 (C) Pouch

『羊の木』
(2018年2月3日より、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー)
監督:吉田大八
出演:錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平、中村有志、安藤玉恵、細田善彦、北見敏之、松尾諭、山口美也子、鈴木晋介、深水三章
(C)2018「羊の木」製作委員会  (C)山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

▼映画「羊の木」予告編