【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

新型コロナウィルスによる自粛要請を受け、営業を休止していた映画館ですが、緊急事態宣言の解除により、営業再開。やっと「新作映画が劇場で観られる!」という幸せな時間が戻ってきました。各劇場、安心して映画鑑賞を楽しめるように、場内の換気、座席の間隔の確保など、さまざまな感染症予防対策に取り組んでおり、本当にありがたいことです!

そこで、今週から新作映画の本音レビューも少しずつ再開していくことにします。今週は、大ヒット中の『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』をピックアップ。19世紀が舞台ですが、描かれる世界は21世紀の今を生きる女子にも通用するフレッシュな「若草物語」です!

【物語】

マーチ家の四姉妹、しっかり者の長女メグ(エマ・ワトソン)、情熱家で行動的な次女ジョー(シアーシャ・ローナン)、病弱な三女ベス(エリザ・スカンレン)、ちょっと生意気な末っ子エイミー(フローレンス・ピュー)、は、ときどきケンカをしながらも仲良く暮らしていました。

ある日、ジョーはローリー(ティモシー・シャラメ)と出会います。ローリーのフレンドリーでやさしい性格に惹かれていくジョー。そしてローリーもジョーへの思いを募らせていました。

しかし、彼女には小説家になる夢があり、結婚して家庭に収まることなど到底考えられず……。

【何度も映画化されたオルコットの名作小説】

四姉妹のかけがえのない日々を描いたオルコットの原作「若草物語」を読んだことがある人は多いと思います。私も遠~い昔に読みました。

原作は四姉妹が主役だったと思うのですが、本作は「女は結婚がゴール」という時代に「私は作家になるの!」と、人生を切り開いていったジョーの映画です。

女性の権利は守られず、社会に出ていくことが厳しかった時代に、ジョーは「夢を叶える」というカタチで、当時の女性ができなかったことをやろうとしたのです。

偉い人ではなく、フツーの女の子が、恋をしたり、失恋したり、挫折したり、家族を失ったり、さまざまな経験をしながらも夢を諦めず、走り続けた物語なのです。

【ジョーの存在をおびやかす?末っ子エイミーの強烈な存在感】

四姉妹の仲良しエピソードはとてもほっこりするのですが、ジョーとエイミーは感情的になりやすく、よくぶつかりあうんですね。加えて、恋愛においては三角関係になるという……。

ローリーは、ずっとジョーを愛していますが、そんな彼に恋しているのがエイミー。彼女はローリーがジョーを愛していることを知っているけど、自分の気持ちを隠さない。ローリーを見つめる瞳、言葉、ふるまいから、彼への思いがすごくわかるんです!

「エイミーってこんなに情熱的だっけ?」と新たな発見をした気持ちでした。

困難にぶつかっても諦めず、軽やかに駆け抜けるジョーと、ジョーのことが大好きだけど、どこか対抗心を隠せない気の強いエイミーの対比が面白かったです。

【家族の力がジョーの背中を押した!】

長女メグは結婚して良妻賢母に、三女のベスは病弱で家におり、末っ子のエイミーはローリーに片思いしながらも「女性は裕福な男と結婚することが幸福」という叔母の言葉を守って玉の輿に乗ろうとします。

一方、ローリーから情熱的なプロポーズを受けても断り、ニューヨークへ作家修行へ行くジョー。

女性の社会進出が普通じゃなかった時代に、ジョーがなぜここまで頑張れたのかというと、家族が見守ってくれたからなんですね。

作家として壁にぶつかって悩むことはあっても、ジョーの人生で家族が足かせになったことはない。「家族の愛情が彼女の人生を支えていたんだなあ」と改めて思いました。

外で嫌なことがあっても、家に帰れば自分の居場所があることのありがたさ、迎えてくれる家族の温かさに気づかされる映画でもあるのです。

ひとつ欠点を言えば、作家として編集者と対峙するジョーが半生を回想する構成ゆえに、過去と現在がたびたび交錯するので若干わかりにくいです。サラっと全体のストーリーを把握してから観た方がいいかも。そうすれば映画の世界にすんなり入っていけると思います。

執筆:斎藤 香 (c)Pouch

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
(2020年6月12日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督&脚本:グレタ・ガーウィグ
原作:ルイザ・メイ・オルコット
出演:シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、エリザ・スカンレン、フローレンス・ピュー、ティモシー・シャラメ、ローラ・ダーン、メリル・ストリープほか