【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは土屋太鳳&田中圭主演映画『哀愁しんでれら』(2021年2月5日公開)です。
土屋太鳳&田中圭主演のサスペンス映画で、土屋さんは3度のオファーを断り、4度目で快諾して出演したという作品。土屋太鳳初の汚れ役と言ってもいいのかも。試写で見せていただきましたが、衝撃的な作品でした。
【物語】
児童相談所で働く小春(土屋太鳳)は自転車屋を営む父(石橋凌)、祖父、大学受験を控えた妹(山田杏奈)と暮らしています。母は小春が幼少期、家を出て行ってしまいました。
ある日、さまざまなトラブルが続き、落ち込んでいた小春でしたが、踏切で線倒れている男性を救出したときから人生が大きく変わります。
救出した男性・泉澤大悟(田中圭)は、泉澤クリニックの院長。「お礼がしたい」という泉澤は、トラブル続きで家計が苦しい小春をあらゆる形で助けてくれます。やがてふたりは恋に落ちて結婚。まさに玉の輿! しかし、この結婚が小春の心を壊してしまうのです。
【土屋太鳳が3度の依頼を断った映画】
土屋太鳳さんが3度も出演依頼を断った映画と聞いていたので「何が太鳳ちゃんをためらわせたのか!」という点も気を付けながら鑑賞しました。
本作はとにかく見せ方がうまく、グイグイと引き付けられ、どんどん薄気味悪くなり、最終的には「そ、そんな…」という展開になっていくのです。また、いろいろ考えさせられる映画でもありました。
【小春の身に降りかかる不幸の連打からの玉の輿!】
前半は小春の過去と現在の環境&不幸を描いています。10歳のときに「あなたのお母さん辞めました」と告げられ、すがる彼女を振り切って出て行った母親。その傷を抱えつつも、家族は、貧しくとも踏ん張って生活していました。しかし、祖父がお風呂場で転んだことを発端に、父が交通事故、家の店舗が火災、小春の恋人の浮気など、不幸の連打!
そんなときに小春が助けた男性がリッチな医者の大悟。命の恩人だと小春に親切にしてくれる大悟。祖父の入院をサポートし、大学受験を控える妹に勉強を教えてくれて、失職した父の転職先も見つけてくれて。そんな人からのプロポーズ。傷ついてボロボロだった小春ですから、そりゃ受け止めたくもなるでしょう。
【幸せな新婚生活からの奇妙な出来事】
実は大悟はバツイチで小学生の娘ヒカリ(COCO)がいました。新しいママに大喜びのヒカリ。新婚生活は順調でした。大豪邸での生活は快適で、朝早く起きてヒカリのお弁当作りをしたり、充実した毎日を送っていました。ところがですよ! ヒカリが学校で小春手作りの筆箱を男子にとられたと主張したことから様子が変わります。
夫婦で学校に抗議に行くと、先生から「ヒカリちゃんが、お母さんがお弁当を作ってくれない!と泣いている」と言う話を聞き、小春は驚きます。毎朝渡しているのに? 小春は母親から捨てられた過去があるため、育児に自信がなく、その後も続くヒカリのワガママやトラブルにどうしていいのかわかりません。
大悟に相談するけれど、ヒカリ最優先の彼は、娘は常に正しいと取り合わず、挙句の果てに「母親失格だ!」と小春を罵倒するのです。
【狂気の家族の末路】
そもそも結婚してまもなく、小春が「?」と思うような奇妙なことが泉澤家にはありました。大豪邸の開かずの間、大悟の隠れた趣味とコレクション、ヒカリの周囲で起こる事故。そして、その毒牙は小春の実家の家族にも及んでいたのです。
「逃げればいいじゃん」と思うけれど、小春は逃げられないようになってしまった。詳細はネタバレになるので避けますが、彼女の心は、大悟の力で泉澤家に閉じ込められてしまったんです。そしてもう後戻りできない結末へと暴走。その姿はまさに「狂ってる!」としか言いようがなく……。
【土屋太鳳の挑戦】
土屋太鳳さんは出演依頼を3度断った理由として「覚悟できないまま取り組む映画ではない」と思ったからと言っています。でもさすがに4度目の依頼を受けて「この映画は生まれたがっている」と感じて出演を快諾したそうです。
彼女の言う覚悟とは、小春が大悟との出会いをきっかけに、思いもよらない方向へと人生の舵を切ってしまい、壮絶な末路を歩む結果になることではないかと。
ここで起こることはまるで三面記事のような事件でもあります。毎日起こる何かしらの事件の背景には、泉澤家で起こっているようなことが現実にあるのかもしれません。
ちなみに大悟を演じる田中圭さんも、娘を演じるCOCOちゃんも素晴らしかったです。特にCOCOちゃんは4歳でインスタを開設し、海外メディアも注目する世界最年少のファッショニスタ。役の核心を掴んだ演技と度胸は末恐ろしい。
王子様に選ばれたシンデレラだったはずなのに……人生が狂ってしまったヒロインの生き様。恐ろしいけれど「本当の幸せって何だろう」と考えさせられる映画でもありました。
『哀愁しんでれら』
(2021年2月5日より、新宿バルト9より、全国ロードショー)
脚本・監督:渡部亮平
出演:土屋太鳳、田中圭、COCO、山田杏奈、 ティーチャ、安藤輪子、金澤美穂、中村靖日、正名僕蔵、銀粉蝶、石橋凌
執筆:斎藤 香 (c)Pouch
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