【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
ピックアップするのは、Kis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔さんが無責任なダメ男を演じることが話題の映画『そして僕は途方に暮れる』(2023年1月13日公開)。演出の三浦大輔監督と藤ヶ谷さんがタッグを組んだ2018年の同名舞台の映画化です。試写で観たのですが、ジャニーズの藤ヶ谷さんが本当にクズな男でしたよ……。
では、物語から。
【物語】
菅原裕一(藤ヶ谷太輔さん)は、定職につかず気ままに生きるフリーター。恋人の里美(前田敦子さん)と同棲しているけれど、生活は彼女におんぶに抱っこ状態です。
そんな彼が、里美とのちょっとした言い争いから、荷物をまとめて出て行くことに。
そのあとも幼馴染(中尾明慶さん)や映画サークル時代の先輩(毎熊克哉さん)など、知り合いの家に転がり込んでは、バツが悪くなると逃げ出す裕一。
ついに行くあてがなくなり、北海道の実家へ帰るのですが……。
【逃げまくる先の人生に興味シンシン】
ジャニーズの世界でキラキラな輝きを放っている藤ヶ谷太輔さんが、都合が悪くなると逃げまくり、いろんな人に迷惑かけまくる男を熱演している本作。
本当に無責任でダメ男の主人公ですが、とにかく逃げまくるので「これほど逃げまくった先には何があるのだろう」と思って観続けてしまう面白さのある作品でした。
とにかく生活を営むことを自分でやろうとせず、全部を人に頼っているところからまずダメなんですよ。同棲中の恋人、幼馴染の親友いずれもお世話になっているのに感謝は皆無。
人のものを勝手に使うし、飲んだり食べたりしてもお金は払わず、お礼も言わない、なんとも非常識な男。このタイプは助けちゃダメとまわりが思っても、愛嬌もあって人当たりがいいので、うまく懐に入られちゃうんですね。
【どうしていいのかわからない人生】
こういう人っていますよね。いわゆる「ちゃっかりした人」の最悪バージョン。でも人を騙しているわけじゃないんですよ。
詐欺師になるほどの頭脳はなくって、「助けてもらった〜」→「怒られた〜」→「逃げちゃおう」と繰り返しているだけ。何ひとつ得なことはなく、むしろ信頼を失っているのです。
裕一自身も語っていますが、怒られると思考が停止して、どうしていいのかわからなくなるんですね。だから逃げるという安易なリセットの道を選んじゃう。
とはいえ、その場しのぎをしても、根本が変わらないから同じ失敗を繰り返すという……。裕一は自ら負のループにハマりにいっているように見えました。
【家族と再会して見えてきたもの】
結局、行くところがなくなり、北海道の実家に帰る裕一。お母さん(原田美枝子さん)はひとり暮らしで、お父さん(豊川悦司さん)が出ていった広い家を持て余し、どこか寂しそう。
そんなお母さんを見て「一緒に暮らそうかな」と言う裕一。がしかし、そのあとにお母さんから出てきた言葉と行動に、裕一はドン引き!
詳しくは映画を観ていただきたいのですが「ここにはいられない!」とまた逃げ出し、今度は父の元へ。しかし、この父が裕一を上回るダメ男なんですよ〜!
そんなクズ父と一緒に過ごしているときの裕一の顔が見もの。「親父めちゃくちゃクズだな」「でも俺がこうなのは親父の遺伝?」「俺もこんな感じなの?」みたいな戸惑いが見えて、なんだか滑稽でしたね。
【藤ヶ谷さんが逃げたくなった撮影】
この映画は主人公が、東京、北海道などいろんな場所へ逃げまくる設定なので、藤ヶ谷さん、とにかくよく走っています。「お疲れ様です!」と声かけたい気持ちになりましたよ。
撮影ではもっともっと何度も走らされているんだろうな〜と思いながら観ていたのですが、やっぱり三浦監督にめちゃくちゃ走らされたそうで
「長い時間、長い距離を走りましたし、何度撮影から逃げたいと思ったことか(笑)」
と語っていました(公式インタビューから抜粋)。
【ジャニーズの演技派としてのステップアップ】
後半は、実家に帰ってから裕一の心情が激しく揺れ動くことが続きます。彼は言葉にするのが下手なタイプなので、全て表情や仕草などで表現しなくてはならない。それまで「どうしていいのかわからないから、いつの間にか逃げていた」と言う裕一が少しずつ変化を見せていく様を、藤ヶ谷さんが微妙に表情を変えて魅せます。
「精神的にも体力的にもこれまでにないくらい追い詰められた作品」(公式インタビューから抜粋)と、藤ヶ谷さん。クズ役は演じる方も大変なんですね。でも渾身の力を振り絞って演じただけあって、俳優・藤ヶ谷太輔の実力をガッツリ見られる作品になっています。
ぜひスクリーンで逃げまくる裕一こと藤ヶ谷太輔さんを観ていただきたいです!
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2022 映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
『そして僕は途方に暮れる』
(2023年1月13日より全国ロードショー)
脚本・監督:三浦大輔
エンディング曲:大澤誉志幸『そして僕は途方に暮れる』
出演:藤ヶ谷太輔、前田敦子、中尾明慶、毎熊克哉、野村周平、香里奈、原田美枝子、豊川悦司
コメントをどうぞ