【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、コラムニストの高山真さんの自伝的小説の映画化作品『エゴイスト』(2023年2月7日公開)です。主演は鈴木亮平さん、その恋人を演じるのは宮沢氷魚さん。また、作家の阿川佐和子さんも出演しています。

試写で観せていただきましたが、男性2人のラブストーリーという枠に留まらない、本当に素晴らしい映画でした!

まずは物語から。

【物語】

14歳で母を失い、田舎町でゲイであることを隠して生きてきた浩輔(鈴木亮平さん)。鬱屈とした思春期を経て、上京した浩輔は、ファッション雑誌の編集者として出版社に勤務。公私共に充実した毎日を過ごしていました。

そんな彼が友達の紹介で出会ったのはパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚さん)。シングルマザーの母(阿川佐和子さん)を支えながら暮らしている龍太と浩輔は惹かれ、龍太の母も交えて楽しい時間を過ごします。

しかし、思いがけないことが起こるのです……。

【純愛とエゴが絡み合う物語】

本作は2020年に亡くなった高山真さんの自伝的小説で、鈴木亮平さんが演じる浩輔が高山さんにあたる人物です。

浩輔が恋をした龍太は、病弱で働けない母を支え、生活費を稼ぐために高校を中退して働いていました。今はパーソナルトレーナーをしていますが、それだけでは金銭的に苦しく、母には言えない仕事をしているのです。

そんな彼を助けたいと思う浩輔は、その仕事はやめてほしい。その代わりギャランティを払うから自分の専属になってくれと言います。

「彼をお金で買うの?」と最初は驚きましたし、龍太も戸惑っていましたが、浩輔は1歩も引きません。「龍太とお母さんを助けたい」という思いを貫きたい浩輔。

龍太の幸せを思ってのことですが、その気持ちの中には自分自身の強い思いも重なっています。

大切な人たちが辛い思いをしているのを見たくない、楽になってほしい。そんな純粋な思いから生まれた浩輔の「あなたのためを思って」という優しさが実はエゴなのかもしれないと。

浩輔と龍太の恋愛に限らず、愛には常にエゴが横たわっているのかもしれない……。

そこに、タイトルの「エゴイスト」の意味が込められているのかなと思いました。

【鈴木亮平と宮沢氷魚の美を堪能】

エゴについて色々考えながらも、物語にどっぷり酔えたのは鈴木亮平さんと宮沢氷魚さんの素晴らしかったから。もう、これにつきます!

映画を観ている間、浩輔と龍太の日々を横から見ているような、2人の存在がすごく近くに感じられました。鈴木さん、宮沢さん共にさまざまな作品で活躍していますが、その全てを忘れて、もう浩輔と龍太にしか見えません!

この映画は2人のラブシーンもリアルに包み隠さず見せていくのですが、それがまたエロティックかつ美しくて。

好きな気持ちのボルテージがグングンと上がっていってお互い絶対に必要な人になるのですが、その愛は永遠ではなくて……という展開も切なくて胸が痛くなりました。

【母の存在の大きさと浩輔の情の深さ】

また本作では母親が大きな存在になっています。阿川佐和子さんが演じている龍太の母は浩輔が家に遊びに来たとき、とても温かく迎えます。

14歳で母を失った浩輔は龍太の母に自分の母の面影を見たのかも。だから龍太の母にも親身に尽くすんです。本当はお母さんにやってあげたかったことを、龍太のお母さんにしているかのように。

誰でも自分の大切な人には幸せになって欲しいと思うけど、浩輔みたいにストレートに情をかけてあげることはなかなかできないのではないでしょうか。だからこそ観ているこちらは、浩輔にも幸せになって欲しいと思うのです。

人生はままならないけど、大切な人をしっかり愛し、自分らしさを失わずに生きることは大切。それさえできれば、結果的にどう転ぼうと後悔のない人生になるのでは……。そんなふうに考えさせられる作品でした。

何より、鈴木亮平さんと宮沢氷魚さんの美麗ツーショットは眼福なので、ぜひ大きなスクリーンで見ていただきたい。目が眩むくらいハンパないです!

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:Ⓒ2023 高山真·小学館/「エゴイスト」製作委員会

『エゴイスト』(2023年2月10日より全国ロードショー)
原作:高山真「エゴイスト」(小学館刊)
監督・脚本:松永大司
出演:鈴木亮平 宮沢氷魚
中村優子 和田庵 ドリアン・ロロブリジーダ
/ 柄本明 / 阿川佐和子