【最新公開シネマ批評】映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
ピックアップするのは、ディズニー&ピクサーの最新作『マイ・エレメント』(2023年8月4日公開)です。火・水・土・風が暮らす世界で、家族の物語と火と水の恋を描いたハラハラしてキュンとして感動する作品。
私は川口春奈さんと玉森裕太さんが火と水を演じる日本語吹替版で鑑賞しました。では、物語からいってみましょう。
【物語】
「エレメント・シティ」は火、水、土、風、4つのエレメントたちが共に暮らす楽しい街。火の女の子エンバー(声・川口春奈さん)はお父さんが経営する雑貨店を継ぐためにお手伝いに一生懸命です。
そんなある日、ある偶然から水の街の青年ウェイド(声・玉森裕太さん)と出会います。
ウェイドは水道検査官で、水道管が破裂したエンバーの父の店は営業停止にしないといけないかも……と言い出します。なんとか阻止しようとするエンバー。そんなやりとりがきっかけでふたりの距離は縮まっていくのですが……。
【エレメントの性質とキャラクターの性格】
火、水、土、風、4つのエレメントをキャラクター化して、共生させる物語を作り出すなんて、さすがディズニー&ピクサー、すごいアイデアだな〜と思いました。
ヒロインのエンバーはまさに火の女の子! いつもやる気がみなぎっていて元気だけど、超短気なんですよね〜。だからすぐカッとして紫の炎を燃え上がらせちゃうという……。
反対にウェイドは穏やかに流れる水のように心やさしい男の子。エンバーの家族写真を見ただけで「素敵な家族だね…うわ〜ん」と泣き出すという涙腺の弱さは水のエレメントならでは!
そんな火と水のふたりが、水道管破裂の原因を探るために手を組むのです。
【現実社会を反映したエレメント・シティ】
冒頭で、エンバーのお父さんとお母さんの苦労話が描かれます。
お父さんとお母さんが幼いエンバーを連れてエレメント・シティのイベントに行くと「お前たちはなんでも燃やしてダメにするから入るな」と門前払いされるなど、心痛くなるような差別にあっていたのです。お店を開店させるまでも苦労の連続です。
こういうことは現実社会にもあるなあと思いました。火のエレメントは社会の弱者のような存在に見えましたが、でも火だからこそ絶対に屈しない強さがあります。
実際に逆境を跳ね除けて、エンバーのお父さんは念願の店をオープンさせましたからね!
【人生と恋に悩むエンバーのターニングポイント】
苦労を重ねてきたお父さんは火の街以外は信じていないので、エンバーはほかの街のことをあまり知りません。でもウェイドに出会って、水、土、風の世界を知ることで視野が広がり、ずっと火の街で暮らすことに疑問を感じ始めるのです。
ここからエンバーは葛藤します。お父さんの苦労を知っているから「私はこの店を継ぐの!」と何度も口にするけど、本当はそう思っていないんじゃないかなと思いました。家族思いの女の子なので悩んでしまうんですね。
またウェイドのやさしさに触れて心惹かれながらも、エレメントが違う相手だからお父さんに反対されてうまくいかないと悩むわけです。ウェイドもエンバーの家族思いの熱い心と行動的なところに自分にない魅力を感じ、好意を見せるんですけどね。
火と水、お互いにないものを補い合える相手だけど、場合によってはお互いを消滅させてしまいかねない相手……。そこにこの恋の切なさがありました。
【玉森裕太さんの声優名演技!】
日本語吹替版では、特に玉森さんが素晴らしかったです。アニメーションの吹替は、本人が演じるお芝居よりも多少オーバーな演技になると思うのですが、その加減が絶妙!
ウェイドが感動して泣いたり、感情を露わにしたりするシーンなど玉森さんの名演があったからこそ映画の世界に没入できました。
個人的に日本語吹替版のMVPを差し上げたいくらいです!
エレメント・シティの映像もカラフルポップで可愛いし、エンバーがバイクで爆走するシーンなどスリリングでアトラクションみたい。ぜひスクリーンでエンバーとウェイドの物語を堪能してください。
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:(C)2023 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
『マイ・エレメント』
(2023年8月4日より大ヒット公開中)
監督:ピーター・ソーンース
日本語吹替版:声の出演:川口春奈、玉森裕太、伊達みきお、MEGUMI、
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