【最新公開シネマ批評】映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは窪田正孝主演映画『スイート・マイホーム』(2023年9月1日公開)です。原作は神津凜子の同名ミステリー。演出は『blank13』(2018年)などの良作をリリースしている気鋭の監督こと、俳優としても人気の齊藤工監督!

試写で見させていただきましたが、正統派のサスペンスホラーでグイグイ引き込まれました。

では、物語からいってみましょう。

【物語】

長野県で暮らすスポーツインストラクターの清沢賢二(窪田正孝さん)は、念願のマイホームを購入します。

地下にある巨大な暖房設備が家全体を温めてくれるという “まほうの家” に妻のひとみ(蓮佛美沙子さん)と娘も大喜び。しかし、しばらくすると清沢家の周囲で不可解な出来事が起こり、やがて殺人事件が起こってしまうのです。

【齊藤監督のジワる恐怖演出!】

家が恐怖の起点になるサスペンス映画は国内外問わず多いのですが、本作はその中でも複雑な構造をしていると感じました。それは登場人物全員が「恐怖の鍵を握っているのではないか」と思わせてくるから。

清沢家が家を購入するときに、賢二とひとみが関わる住宅会社社員の本田(奈緒さん)と甘利(松角洋平さん)、賢二の引きこもりの兄・聡(窪塚洋介さん)、母の美子(根岸季衣さん)、みんな何か隠していることがあるようです。

そして被害者である賢二自身も妻に対して後ろめたい秘密と過去にトラウマを抱えています。

登場人物が抱える裏の顔をさりげなく見せていくことで、新居への引っ越しをきっかけに生まれる恐怖が、家に取り憑いた怨霊なのか、それとも人間の仕業なのか、観客を混乱させていくのです。

【きれいな新居が恐怖で荒れていく】

清沢家が引っ越した家はとても凝った構造なので、娘の友達が遊びに来たとき、ちびっ子たちがかくれんぼに夢中になります。しかし、あるお友だちが地下室に隠れて具合が悪くなってしまってから、この家には誰も訪れなくなるのです。

そして生まれたばかりの赤ちゃんの目に不吉なものが映り込んでいたり、赤ちゃんの泣き声だけが聞こえて姿が見えなかったり……。

最後にはひとみまで「誰かに見られている」と怯えはじめ、幸せの象徴のようなきれいな新居がだんだん荒れていくのです。

【真犯人が見つかってからの闇】

清沢ファミリーを地獄に突き落とした犯人、その動機についてはぜひ映画を観ていただきたいのですが、この映画の衝撃は真相がわかったあとも終わらず、ゾッとします。

正直、大人の企みに巻き込まれた子ども達が可哀想でたまらなくなるし、正直なところ後味は良くないです。

しかし、齊藤監督が果敢に挑んだサスペンス映画、窪田正孝さんらキャストの熱演もあって、本当に気味が悪かったし見応えありました! ぜひ、劇場で恐怖体験してきてください。

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社

『スイート・マイホーム』
(2023年9月1日より全国ロードショー)
原作:神津凛子(講談社文庫「スイート・マイホーム)
監督:齊藤工
出演:窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、中島歩、里々佳、松角洋平、根岸季衣、窪塚洋介、吉田健悟、磯村アメリ、岩谷健司