【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、『ミッドサマー』で世界を震撼させた奇才アリ・アスター監督最新作『エディントンへようこそ』(2025年12月12日公開)。試写で鑑賞しましたが、今回もやっぱりとんでもない怪作! アスター監督の前作『ボーはおそれている』のホアキン・フェニックスさんが本作でも主演をつとめています。

では、物語からいってみましょう。

【物語】

2020年、世界中がコロナ禍でロックダウン状態のころ、アメリカ・ニューメキシコの小さな町エディントンでも住民が隔離生活を送っていました。そんな中、保安官のジョー(ホアキン・フェニックスさん)は、市長・テッド(ペドロ・パスカルさん)とソリが合わず、常に敵対しており、マスクをする・しないという小さな諍いでも本気のバトル!

やがてジョーのテッドへの敵対心はどんどん膨らんでいき、ついに彼は次の市長選挙でテッドと闘うことを決心するのですが……。

【コロナ禍の不満が渦巻くエディントン】

コロナ禍の不満や鬱憤が爆発したような本作

外出が禁止されて家に閉じこもっていると、時にはネガティブ思考になってしまうこともありますが、ジョーの妻ルイーズ(エマ・ストーンさん)は陰謀論にどっぷりはまり、そこに光を見出してしまうのです。

町では白人の若者たちが有色人種の人々に対して「私は白人だから人種差別がわからない。あなたは差別を感じているはず、一緒に声をあげましょう」と “ブラック・ライヴズ・マター” 運動を始めたりして。

ジョーは警察の言うことをきかない者たちの相手にうんざりし、家に帰れば陰謀論にハマった妻に苦しめられていました。彼はそんな行き場のない思いを「市長選挙」にぶつけるのです。

【雪だるま式に大きくなっていく悪い出来事】

ジョーが市長になりたい理由はありません。エディントンのためではないし、権力を得たいわけでもなく、ただテッドを倒したいだけなのではないかと。妻がテッドの元カノというのも彼は気に入らないし「絶対に勝ってやる!」という気持ちになっていくんです。

しかし、選挙に熱を入れているうちに、妻は陰謀論で人気を得ているカルト集団のヴァーノン(オースティン・バトラーさん)と急接近。ますますジョーの心は掻き乱されていきます。そのあともジョーの身の回りで起こることは悪いことに悪いことが上乗せされていき、後半は地獄絵図!

さすがアリ・アスター監督、暗いトンネルの向こうはずっと暗いまま。一筋の光も見えません!

【世界中の様々な問題をギュっとまとめて膿を出す】

最初から最後まで一度もハッピーな気持ちになれない怪作ですが、なぜか脳裏にくすぶっていた膿を出した感はあるんですよね。

新型コロナのパンデミック、人種差別の理不尽、銃社会の怖さ、フェイクニュース、陰謀論、カルト集団など、世の中の社会問題をまとめてスクリーンを通して白日のもとにさらした作品だと思いました。しかし、その膿は出しきれず未だ続いている……と言うのが怖いけれど。

それにしてもホアキン・フェニックスさんは『ボーはおそれている』で演じた主人公以上にひどい目にあっていたようなしかし、役者としてはやり甲斐がある役なんだろうなと思いました。

ホアキンの凄まじい怪演にも注目しつつ、ぜひスクリーンでアリ・アスターの世界をお楽しみください。

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:© 2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

エディントンへようこそ
2025年12月12日(金)より、全国ロードショー
監督・脚本:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラー、ルーク・グライムス、ディードル・オコンネル、マイケル・ウォード