先日、ある奇妙なサイトにたどり着きました。Some Photographs of That Dayと題されたそのページには、ポラロイド写真と日付がただズラリと貼られているだけ。1日1枚の写真で、日付は1979年3月31日に始まって1997年10月25日に終わっています。撮った人物の名前や説明文なども一切ありませんでした。

「これはいったい何?」と興味を持って最初の写真を見始めたのが夜の10時頃。いつの間にか引き込まれ、行きつ戻りつして全てを見終わった明け方には、静かな感動に包まれていました。そこに映し出されていたのは、ある1人の男性がたどった、学生時代からその死までの人生だったのです。

写真はどれも特別なものではありません。日々の出来事や恋人、友人たち、家族、道行く人、通りや室内の風景、なかには何が映っているのか分からないものも。それでも1枚ずつ見ていくと、この人物がどんな生活をして何をしているのか、どんな人なのかが徐々に分かってきます。

写真は学生時代から始まります。撮っているのはニューヨークに住むジェイムズ(ジェイミー)・リビングストンという若者でした。卒業後には映像関係の仕事に進み、アーティストとしての人生が始まります。

やがて、彼がミュージシャンでもあること、サーカスが大好きで夏には各地でパフォーマンスもしていること、定期的に家族に会っていること、10月25日が誕生日であること、NYメッツの大ファンなこと、喫煙者で100円ライターをコレクションしていること、そんなことが分かるうちに、気がつけばこのエネルギッシュな青年にだんだんと親近感がわいてくるのです。

少しずつ仕事で成功していく様子や、いつも楽器と仲間でにぎわう部屋や恋人たち。そんな姿を追ったり、小さな発見が思わぬ手掛かりになって広っていく感覚は、映画や小説のような、それともまた違うような、不思議な体験を与えてくれます。

写真も半ばを過ぎるころには、色々な事実と想像が膨らんで、まるで彼が実際の友人のように感じてきます。そして迎える最後の年。残念ながら、私たちは彼が病魔に冒されてゆく姿を見ることに。1997年5月2日に入院。説明はありませんが、続く写真からそれが癌(がん)で、しかもかなり深刻であることが分かります。

残りの半年は、化学療法を使った厳しい闘病生活、衰えていく容姿、そんな中で見せるちょっとしたユーモア、彼を支え続ける友人たちの姿などが淡々と映し出されていきます。そして最後のドラマが訪れるのです。

10月5日の写真に映されているのは結婚指輪でした。続く二日後に挙式。ウェディング姿の彼は久しぶりに明るい表情をしています。しかしその数週間後には、また病院のベッドの上へ……。10月24日は、昏睡状態の彼の傍らで楽器を奏でる友人の姿。その翌日の誕生日に彼は亡くなります。

一連の写真は、”Photo of The Day”(その日の写真)という学生時代に彼が個人的にスタートしたプロジェクトでした。ウェブサイトは死後に友人がまとめたものだそうです。インディペンデント映画の監督やカメラマン、広告やビデオクリップ業界で活躍していた彼の、生涯をかけた最後の作品とも言えるでしょう。

およそ19年分、その数6500枚以上の写真が語りかけてくるもの。ポラロイドというネガのない一度きりの写真媒体だからこそ、そこには胸に迫るはかなさがあるのかもしれません。皆さんは何を感じるでしょうか? ここで紹介できるのはほんの一部ですので、気になる方は是非ウェブサイトで彼の人生に触れてみてください。

(文=黒澤くの)
参照元:mentalfloss.com(http://goo.gl/OOt9e)、http://photooftheday.hughcrawford.com(http://goo.gl/NTB6U

▼学生時代からのスタート

▼映画の編集中。赤いお気に入りのベスト。

▼フィルム・フェスティバルからの招待状

▼何度も現れる友人。どんな音楽を演奏していたのでしょう?

▼アコーディオンが得意。他にも沢山の楽器が登場します

▼毎年3月30日には今まで撮った写真を並べています

▼旅

▼最後の数ヶ月。苦しい中でもユーモアを忘れない人柄(1997年9月1日)

▼いつも仲間たちがいます

▼ウェディング(1997年10月7日)

▼緊急入院(1997年10月20日)

▼死の前日。祈るように音楽を奏でる友人(1997年10月24日)