[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、本日11日公開のブラット・ピットが製作&主演する野球映画『マネーボール』です。オークランド・アスレチックスの名物GM(ゼネラル・マネージャー)ビリー・ビーンのチーム改革を描いたこの映画。原作はマイケル・ルイスの同名著作ですが、映画化不可能と言われていました。

野球業界を取り上げたとはいえ、中心は野球における非効率な点やその検証、あらゆる場合のケーススタディや統計学を綴ったもので、物語性はまったく皆無! しかし、この原作に登場する、統計学、データをもとにアスレチックスを改革したビリー・ビーンという人物に、プロデューサーのレイチェル・ホロヴィッツは注目しました。

そして同じくプロデューサーであるブラット・ピットも「絶対にビリーを演じたい!」と強く思ったのです。ビリー・ビーンの存在が映画化をスタートさせたというわけです。

選手のグランウンドでの実績、潜在能力、将来性といったものが重視されてきた野球界に統計学を持ちこんで、無名選手でも「出塁率がいい」「どんな形であれ打点率がいい」などのデータから選手をチョイス。20連勝という快進撃をなしとげるチームを作ったビリー・ビーン。この映画の成功の秘訣は、弱小チームが強くなっていくサクセスストーリー+マネーボールを実行していくベンチ裏の攻防+ビリー・ジーンの野心の裏側のコンプレックス、この3つが絶妙なさじ加減で映画に映し出されたことが大きいでしょう。

「この映画は典型的な弱者のストーリーだ。彼らはどうやったら生き残れるか、どうやったらスター選手が多い金持ち球団と互角に戦えるかと考えた。同じやり方じゃダメだ、独自のスタイルを見つけなければ……と体制に闘いを挑んだ人たちを描いた映画なんだ」と、ブラット・ピットは言っております。

そして映画を見た原作者のマイケル・ルイスは、「この原作をいったいどうやって映画にするんだ? と思っていたけど、ベネット・ミラー監督と脚本家チームは不可能を可能にした! 僕の本がこれほど見事に映画化されるなんて……唖然としたよ。ビリーとアスレチックスが経験したこと、成し遂げたことが忠実に描かれた映画になっている」
と、賛辞を惜しみません。ちなみに脚色したのは『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞を受賞したアーロン・ソーキンと『シンドラーのリスト』でアカデミー賞を受賞したスティーヴン・ザイリアン。さすがです!

しかし、映画を見ればわかるのですがビリー・ビーンは決して理想の上司と言える人物ではありません。短気で落ち着きがなく、あまり周囲に目を配る様子もない、いわゆるワンマンGMで、彼のスタッフは振りまわされていつもてんてこ舞いです。それでも憎めない、応援したくなるのはビリーを演じたブラット・ピットの功績大! 彼のキャリアベストとなる名演が、ビリーにチャーミングな輝きを与えたのです。

この映画が公開される11月11日は、日本のプロ野球、日本シリーズが始まる前日。そういえばセ・リーグの覇者、中日ドラゴンズの落合監督も周囲に何と言われても自分の主義を貫くオレ流。現場監督と経営サイドという違いはあれど、オレ流はビリーにかぶるかも? 映画館でアスレチックスの伝説の快進撃を見て、テレビでは日本シリーズ中継を満喫。そんな風に野球に酔う週末もいいかもしれませんね!

(映画ライター=斎藤 香

『マネーボール』
11月11日公開
監督:ベネット・ミラー
出演:ブラット・ピット、ジョナ・ヒル、フィリップ・シーモア・ホフマン、ロビン・ライト、クリス・プラット、スティーブン・ビショップ、ケリス・ドーシー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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