[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、11月10日公開の三池崇史監督作『悪の教典』です。貴志祐介氏のベストセラー小説を映画化。先生が生徒を皆殺しにし、学園が地獄絵図になる物語。監督は三池さんですからね、情け容赦ない描写がたたみかけるバイオレンスな青春映画になっています。

物語の舞台は高校。爽やかで明るい蓮実先生(伊藤英明)は2年4組の担任で、生徒たちから「ハスミン」と呼ばれる人気教師。ところが高校で一つ、二つと事件が増えていきます。行方不明の生徒、殺された教師、真相はわからない。すべては蓮実が起こしたことだけれど、彼は人気と信頼が絶大な教師。誰も彼を疑わない……と思ったら、徐々にほころびが見え始めるのです。もうごまかせないと悟った彼は、猟銃を手に学園祭の準備で徹夜している生徒たちの元へと向かい……。

子供たちが殺しに巻き込まれていく映画といえば深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』がありますが、あれは、やるかやられるかを描いた子供たちの戦争映画。最近ヒットした『ハンガー・ゲーム』も生き残りをかけた殺し合いのゲーム。似たように見えるけど、決定的に違うのは、この映画で蓮実の餌食になる生徒たちは立ち向かえない、ただ殺されていくだけなのです。

そして蓮実の殺しに動機はなく、サイコパス、狂気にかられた人なので、殺しをやめるような説得も通用せず、殺しに意味はない。物を壊すように生徒を血まみれにしていく姿は、おそらく日本映画史上まれにみる極悪人でしょう。

そんな極悪人を、つい最近まで『海猿』シリーズで正義のヒーローである主人公を演じていた伊藤英明が怪演したというのも面白い! 爽やかな笑顔をたたえながら、バンバン人殺しをしていく。いかにもワルという風貌じゃないところがかえってやっかいで、生徒たちがどこか「先生を信じたい」と思ってしまう。そんなけなげな気持ちを踏みにじっていくのです。それも殺しに「やった!」という快感を得ている感じもなく、まるで縁日の射的で、標的を落とすくらいの軽さってところも、逆に怖い……。 

伊藤英明は、『海猿』シリーズとは一転!『悪の教典』では、正反対のアンチヒーローになり、海上保安官から高校教師へ転職しましたが(!?),三池監督は、そんな伊藤英明の蓮実を絶賛。「サイコパスを演じさせたら世界で1、2を争うと思う。アンソニー・ホプキンスか伊藤英明かという(笑)都会的で洗練されているのに、時に荒々しく野性を感じさせる稀有な存在」と。

確かに蓮実役はウェットな個性の役者が演じると、残酷すぎて見ていられないかもしれない。そういう意味では、サッパリ草食系でもなく、ギラギラの野生系でもない、ニュートラルなイケメンの伊藤は蓮実役には適役で、だからこそ映画『悪の教典』は成立したのかも。

後半の殺戮シーンは、三池監督の真骨頂で、これでもかと血が飛びまくります。三池監督も「“へたに映画を見に行くと、えらいことになっちゃう”という作品があってもいいんじゃないの?」と語っていますが『悪の教典』はまさにそれ!ただ、記者は、蓮実と同じパワーを持って抵抗するキャラクターがいればよかったとも思いましたね。あまりにも蓮実が一方的過ぎたから……。

とはいえ、三池監督は、かなりこの題材がお気に入りのようで、続編を匂わすようなシーンも。大量殺人で死刑必至の蓮実の続編とは?とりあえず『悪の教典』を見て「えらいことになっちゃう」感じを体験してください!

(映画ライター=斎藤 香


『悪の教典』
2012年11月20日公開
監督:三池崇史
出演:伊藤英明、二階堂ふみ、染谷将太、林遣都、浅香航大、水野絵梨奈、KENTA、山田孝之、平岳大、吹越満ほか
(C)2012「悪の教典」製作委員会