エスニック料理ラバーの皆さん! きっと皆さんに満足いただけるお料理が45種類も載っているレシピ本があります。その名も『海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders』。この本のレシピ、クックパッドさんにもあまり載っていないお料理ばかりで、わりと簡単にできるものも多く、おいしいのです。
でもこの本の見所はおいしい料理のレシピがたくさん載っていること、だけではありません。この本の成り立ちを知ると、もう涙がどばどば出てきてしまって、大変なんです! 「泣ける料理本」と言っても過言ではありません。
掲載されている料理を1つ紹介するとこんな感じ。
■お料理の一例
きな粉入りビルマ風サラダうどん
【材料】(4人分)
鶏もも肉(角切り) 200g
A 砂糖 小さじ1
ターメリックパウダー 小さじ1
ナンプラー 小さじ1
油 適量
タマネギ(みじん切り) 1個
ターメリックパウダー 大さじ1
ニンニク(すりおろす) 3かけ
ショウガ(すりおろす) 1かけ
チリパウダー 小さじ1
B 塩、コショウ 小さじ1
ナンプラー 大さじ2
水 1/2カップ
うどん 4玉
キャベツ(千切り) 1/8個
タマネギ(薄切り) 1/2個
レモン汁 大さじ1
ナンプラー(仕上げ用) 小さじ1
きな粉 大さじ1と1/3
一味唐辛子 小さじ1
塩 少々
パクチー(青ネギなどでも代用可) 少々
ゆで卵(半分に切る) 2個
【作り方】
1. 鶏肉にAをもみこんでおく。
2.フライパ ンに油をひき、みじん切りしたタマネギ、ターメリックパウダーを入れ、火が通るまで炒める。
3.鶏肉とBを加えて焦げないように炒める。
4.別の鍋でうどんを茹で、水気を切り、ボウルに入れておく。
5. うどんの上にキャベツ、薄切りにしたタマネギ、鶏肉をのせ、レモン汁、ナンプラー、きな粉、一味唐辛子、塩をかけ、全体をよく和える。
6.仕上げにパクチーと半分に切ったゆで卵を飾り付ける。
わりと簡単にできるのですが、エスニック料理好きさんなら癖になるのではないかと思うおいしさ! きな粉をスイーツではなくお料理に使うのも斬新な発想です。
■泣ける理由
このレシピ本に載せられているのは、カメルーンやコンゴ民主共和国、ウガンダ、エチオピア、アゼリ、クルド、カレンなどの料理。
「なんかニュースで聞いたことはあるような……」とか「国と地域と民族と、ごちゃごちゃしていて、どこの料理かわかりにくいねえ」とか思った人、するどい!
実はこのレシピ本に掲載された料理は、母国で迫害され、命からがら日本に難民として逃れてきた人たちが教えてくれたものなのです。
皆さん、難民ってどんな人かご存知ですか? よく聞く言葉ではありますが、難民とは、遠い外国で難民キャンプに暮らす人たちのことを指す言葉だと思っていませんか? でも難民は、遠い外国の話だけではありません。日本にも近年では毎年2,000人近くの難民が、やってきているのです。
難民になった理由、多くの場合、宗教、国籍、人種や政治的意見を持ったり特定の社会的集団のメンバーだったりして、母国政府などに目を付けられてしまったということ。迫害の実態がニュースになることもあるために、聞き覚えがあるかもしれません。またレシピのくくりが、必ずしも国名だけでないのは、母国で迫害され、日本に難民として逃れてきた、国を持たない民族のお料理も掲載されているからです。
「政府に目を付けられるなんて、その人、よっぽど悪いことをしたのでは?」と思う人もいるかもしれません。でも、高校の学校の先生が何かのデモに参加したり、政府の批判をするようなことをブログに書いたとしたりしても、日本だったら政府に命を狙われるようなことは考えにくいはず。それと同じことをして、政府に命を狙われてしまうような国が、世界にはあるのです。
命からがら逃げてきているために、家族と別れて日本にやってきている人がほとんど。日本に来たのも「最初にビザを出してくれた国だったから」という理由など、選択の余地のない状態で来ています。しかし日本に逃げてきたらもう安心、ということはありません。
日本語や日本の法律もわからず、家も仕事も、頼りになる存在もなく、母国政府による制裁におびえたまま、日本政府に難民として申請されるまで2年から5年の間、待たなければいけないのです。
そんな中、日本では自分の国で食べていたような見慣れた食品がない場合も多く、難民たちは工夫して何とか日本にあるもので故郷の味を再現しようとしたり、食材を家族に送ってもらって故郷の味を再現したりしています。
紹介した「きな粉入りビルマ風サラダうどん」も、現地ではきな粉は使っておらず、ひよこ豆の粉を使っているそう。でも、日本ではひよこ豆の粉は手に入りにくいので、きな粉を使って代用しているのです。故郷とはちょっと違う味を、故郷を思いながら食べている人たちの姿を想像すると、涙なしでは作れません。
家庭料理の味や匂いは、もう二度と帰れないだろう故郷の記憶を呼び起こすもの。また、故郷に残してきた家族を思い出すものでもあります。この本の編集に当たり、難民に料理の思い出などを聞いたそうなのですが、中には「家族を思い出して、辛すぎるので話せない」という涙ながらに言う人もいたそうです。
表紙には美しいドレスをきた女性の写真が載っています。この女性の言葉。
「故郷エチオピアにいる母から、時々、母のドレスを送ってもらっています。『洗わずに送って』と必ず伝えます。それは、服に残った母の匂いから、母のこと、故郷のことを思い出すことができるから。」
この本の収益は、日本に暮らす難民のための支援活動に活用されます。みなさんもぜひ『海を渡った故郷の味』を手に取って、おいしい料理を作りながら、難民たちの気持ちに想いをはせてみてはいかがでしょうか。
■書籍情報
『海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders』 1575円(税込)
詳細情報: http://www.flavours-without-borders.jp
(取材、文、「作り方」中の写真=FelixSayaka)
写真提供、取材協力=認定NPO法人難民支援協会
▼レシピは英語でも併記されています。英語の勉強にもなっちゃう!
▼離ればなれになった家族の写真を見て思いをはせる難民
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