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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した是枝裕和監督作『そして父になる』です。6年間育てた息子が他人の子だったという真実に直面した二組の家族の物語。挫折を知らずに生きてきたエリートの主人公が、初めて正解のない問題に直面し、自分の心と向きあい、家族と向き合い、初めての苦しみを味わうのです。

坂本龍馬でもない、ガリレオの湯川でもない、究極の選択に苦しむ普通の男を演じたのは福山雅治。彼にとって大きな挑戦でもある作品です。

大手建設会社勤務の良多(福山雅治)は妻みどり(尾野真千子)息子の慶多(二宮慶多)と何不自由ない暮らしをしていましたが、妻が息子を産んだ群馬の病院から、子供を取り違えていたと連絡が来ます。本当の息子は電気屋を営む雄大(リリー・フランキー)と妻のゆかり(真木よう子)のもとで琉晴(横升火玄)という名で育てられていました。ずっと息子だと思っていた慶多は、雄大たちの子だったのです。子供を交換する決心がつかない両家は、話し合い、週末だけ慶多と琉晴をそれぞれの家に泊まらせてみるという試みをしますが……。

かつて大映ドラマで子供取り違えで人生が変わってしまった~みたいな物語がありましたが、この映画のベースとなっているのは実在した事件。「ねじれた絆―赤ちゃん取り違え事件の十七年」(奥野 修司・著)を是枝監督は参考文献としてあげています。

この映画は、実の子じゃなかった……という夫婦のショックと、どうするのかという難題と、なぜそのようなことが起こったのかという謎を柱に物語は進んでいきます。いくら実子じゃないといっても、6年間育ててきたのだから情があり、子供ふたりを交換すれば解決する問題じゃないのは誰にでもわかります。この映画を見て、改めて一緒に過ごす時間の重みを感じましたね。

もともと福山側から「是枝監督と仕事がしたい」と話があり、この映画はスタートしたそうです。是枝監督の凄いところは、そんな風に言われたら「かっこいい福山を」と思うじゃないですか。でも正直、良多いはかっこいい男ではありません。そりゃ見た目は美しいですよ。でも、いつも上から目線で人を見て、物事をお金で解決しようとし、息子の気持ちもわからない男ですから。でもそんな風になってしまった理由も描かれていますし、良多が確実に変化していく様は見てとれます。人っていくつになっても変わることができるし、成長することができるのだなと、しみじみ……。

また子役たちも、等身大の男の子でいいですね~。ひとりはヤンチャで、ひとりは繊細。親たちの問題に関係なく、子供たちは自然に仲良くなりますからね。重い話だからこそ、子供たちの無邪気さが救いかも。でもその一方で、かわいい子たちだから、大人の都合で生活を一変させられる姿は辛いのですけどね。

家族、親子、血縁関係、愛情、いろいろな感情が湧いてくるし、自分だったらと考えずにいられない映画『そして父になる』。物思う秋にピッタリで、見終わったあと誰かと話したくなる映画です。
(映画ライター=斎藤 香)
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『そして父になる』
2013年9月28日公開
監督: 是枝裕和
出演: 福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー、二宮慶多、横升火玄、風吹ジュン、國村隼、樹木希林、夏八木勲、中村ゆり、高橋和也、田中哲司、井浦新ほか
(C)2013「そして父になる」製作委員会