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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、チャン・ツィイー、チャン・ドンゴン、セシリア・チャンという中国と韓国のスター俳優が共演するドロドロの恋愛ドラマ『危険な関係』(1月10日公開)です。

原作はラクロの同名小説で、何度も映画化されています。本作は中国バージョンというわけですね。なぜこの原作がこれほどまでに映画界で愛されるのか。この物語には人間の愚かさ、愛の脆さがこれでもかと描かれ、かつ、清らかさと対局にある悪も描かれているからでしょう。

1931年の上海。富裕層のパーティで、やり手の女性実業家ジユ(セシリア・チャン)は、恋人が16歳の無垢な少女ベイベイ(キャンディ・ワン)との婚約を発表し、怒り心頭。彼女は元恋人のイーファン(チャン・ドンゴン)にベイベイの処女を奪うように頼み込みます。しかし、プレイボーイの彼はそんな簡単な遊びに興味はなく、祖母に付き添う未亡人のフェンユー(チャン・ツィイー)に興味を持っていました。亡き夫を愛し続ける淑女のフェンユーを落とすことこそ最高の喜びだと。

そして彼はジウと恋愛ゲームをすることに。フェンユーを落としたらジウは再び彼の女になる。でも失敗したら、イーファンの土地を彼女に渡すと。そして、この恋愛ゲームはベイベイをも巻き込み、愛憎が入り乱れる悲恋へと走り出すのです。

この映画のメインのキャラはくっきり分かれているのでわかりやすく、映画の世界にスっと入りやすい構成になっています。

チャン・ツィイー演じる淑女のフェンユーは生真面目で一途な性格。チャン・ドンゴン演じるイーファンは典型的なプレイボーイで、本当の愛など信じてないからこそ、恋愛ゲームに高じることができる男。でも何よりも凄いのはセシリア・チャン演じるジウです。この恋愛ゲームを仕掛け、なおかつ、自分を裏切った元恋人の婚約者のベイベイに悪夢を見させるのですから。こんな性悪、現実にはいないと思いつつ、けっこうこの手の嫌な女に煮え湯を飲まされている女性っているような気も。この映画の舞台は1930年代だけれど、恋愛ネタとは普遍的なものなのだとしみじみ。だからこそ、何度も映画化されているわけですね。

この映画のプロデューサーであるチェン・ウェイミンは「この物語は現代のアジアに通じるものがあります。1930年代の中国と現代の中国の共通点は、物質的な豊かさはあっても他者への配慮に欠けていることです」と語っています。

自分の欲望を全うするためには、他人を踏み台にしてのし上がる、踏み台にされた者の苦しみなど知ったことではないという怖さが、この映画にはあります。その痛みを背負っているのがチャン・ツィイー演じるフェンユー。彼女は可憐に熱演していますが「またこの原作が映画化されるときは、ジウを演じたいわ」と語っていたそうです。セシリア・チャンの悪女ジウも凄味がありましたが、チャン・ツィイーのジウも見たい! 彼女のジウはよりリアルで怖そうですからね。

ホンワカするやさしさやホロリと泣ける感動は正直ないけど、こういうドロドロな愛憎入り乱れる恋愛ドラマもたまには刺激的でよいかと思いますよ。
(映画ライター=斎藤 香)
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『危険な関係』
2014年1月10日公開
監督: ホ・ジノ
出演: チャン・ツィイー、チャン・ドンゴン、セシリア・チャン、リサ・ルー、ショーン・ドウほか
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