【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(2019年1月10日公開)です。『グエムル-漢江の怪物-』などヒット作多数のポン・ジュノ監督の最新作で、カンヌ国際映画祭最高賞パルムドールを受賞した話題作です!
世界中で大ヒットしており、実に評判のいい本作。私は試写で観させていただきましたが、想像のはるか上を超える出来で、「2020年のナンバー1映画決定!」と言ってもいいくらい大興奮しました。では物語から。
【物語】
韓国の貧困街の半地下に暮らす4人家族。楽天家の父キム・ギテク(ソン・ガンホ)、元ハンマー投げの選手の妻チュンスク(チャン・ヘジン)、浪人生の息子ギウ(チェ・ウシク)、娘のギジョン(パク・ソダム)は、内職で生活を営んでいます。ある日、ギウが友達から、家庭教師の代役を頼まれます。彼は言われた通りに高台に住むお金持ちのパク・ドンイク家へ。大学生と偽って、その家のお嬢様の家庭教師を始めたギウは、意外にも話がうまく、たちまち娘と母親の心を掴み、妹のギジョンも家庭教師にすることに成功。そして父も母も……。徐々にキム一家は、ドンイク家に寄生していくのですが……。
【ネタバレ厳禁の予測不可能な映画】
『パラサイト 半地下の家族』はジュノ監督が「絶対に中盤以降の展開はバラさないで」と強く語っている作品です。何も知らずに観たときの衝撃を楽しんでほしいということですが、同時に、監督にとってかなりの自信作であることもそのメッセージからうかがえます。
おそらく本作を観る人は、兄と妹が、家庭教師としてお金持ち一家に入り込んで以降の展開を見ながら、いろいろ予測すると思います。「実はこうなのではないか」と。でもほとんどの人の推理はことごとくひっくり返されると思います。全く想像できない、予測不可能な世界へと映画が転がっていくからです。
【最初はコメディだったのに~】
キム一家はとても貧しいけれど、どこかすっとんきょうで明るい家族です。ギテクはのんきな父さんで、彼のキャラがこの家族のイメージを作り上げています。ギウがお金持ち一家に入り込んでからの展開もテンポよく、妹や両親までもがお金持ち一家に関わるようになっていき、「おいおい、調子いいじゃないの?」という感じなんですよ。
しかし、あるときから一転、サスペンス映画のようになっていくんです。彼らの身に予想もできないことが起こり、とんとん拍子にうまくいっていたことが、グズグズになっていく。加えて、ドンイク家のご主人様の無意識の一言がある人物にショックを与えて、それが最後まで物語の核になっていくのです。
【是枝監督作『万引き家族』との共通点も】
貧しい一家がどんなに努力して、普通になろうとしても、長年の貧困はそう簡単にぬぐえない。どんなに身なりを整えても這い上がれない現実が、映画を通してジワジワと伝わってきます。半地下の家族が高台の豪邸に入り込んだときは「普通以上の生活が送れる」という希望しかなかったのに、それがあるときから絶望に変わっていくのです。
そこに横たわっているのは韓国社会の格差。貧困家庭の人間が「社会の底辺から抜け出すぞ」というやる気を抱いても、その気持ちを思いきりぶった切る展開は背筋が凍るし、やりきれなさを感じます。貧困家族のリアルという点では、是枝裕和監督の『万引き家族』やケン・ローチ監督の『家族を想うとき』との共通点も見られます。しかし『パラサイト 半地下の家族』の凄さは、そのような社会性がベースにありながらも、笑いやアクションやサスペンスも加えてエンタテイメントとしても成立させたことです!
【パーフェクトな映画と世界中が大絶賛】
『パラサイト 半地下の家族』は全米で大ヒットしており、公開時は限定3館だったのが全米306館へと拡大されたそうです(2019年12月/映画.com調べ)。すでにゴールデングローブ賞の外国語映画賞ほか、多くの全米映画賞を受賞しており、アカデミー賞国際長編映画賞も受賞しました。
もしかしたら作品賞、監督賞候補の可能性も出てきました!本作は、ポン・ジュノ監督の最高傑作と言っても過言ではありません。でもこの監督の素晴らしいところは、今後、本作より面白い作品を作り上げる余力を感じることです。おそるべしポン・ジュノ!
韓国の天才監督が放つ「見たことのない衝撃」が隠された映画『パラサイト 半地下の家族』。もうデートのオススメとか女子同士でどうぞとか、そういうのはなしで、とにかく観てほしいです!この映画の凄さと興奮は映画の醍醐味ですから。まさに必見の映画です!
『パラサイト 半地下の家族』
(2020年1月10日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
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