[公開直前☆最新シネマ批評・インタビュー編]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品の監督&主演俳優を直撃インタビューします。
今回インタビューしたのはチェコ映画『クーキー』のヤン・スヴェラーク監督と、主演であり監督の息子でもあるオンジェイ・スヴェラークくんです。
『クーキー』はチェコのアカデミー賞と言われるチェコ・ライオン賞で4冠に輝き、本国では「トイ・ストーリー3」を超える大ヒットを記録した2010年製作の映画で、今年8月にようやく日本公開されます。
チェコの手作り感満載のパペット映画『クーキー』の映画完成までの道のりと、映画出演を嫌がった! というオンジェイくん。プロモーションで来日した二人にその真意を聞いてきました。
【物語】
喘息に苦しむオンドラ(オンジェイ・スヴェラーク)は6才の男の子。お気に入りのぬいぐるみクーキーはいつも一緒の大親友です。でも古いクーキーはお腹からおがくずが出てきてしまい、それがきっかけでオンドラの喘息も悪化! オンドラのお母さんは、クーキーをゴミ箱に捨ててしまいます。しかし、ここからクーキーの大冒険が始まるのです。
【小さな世界を描くことにこだわった監督】
映画『クーキー』は、捨てられたぬいぐるみのクーキーが森の中で大冒険をする物語ですが、最初スヴェラーク監督は、パペット映画にするつもりはなかったそうです。
「俳優は使わず、自然の中の小さな物に焦点をあてて、枝や小石で映画を作りたかったのですが、いろいろ試行錯誤するうちに、長編映画にするのは難しいと気付いたのです。そのとき、息子とよく人形で遊んだりしていたから、人形を使えば、小さな世界を描くアイデアを実現できると思ったのです」
そこからクーキーというキャラや、クーキーが仲良くなる村長などのキャラクターが生まれたのですね。でもこの映画は子供だけでなく、大人にも見てほしい要素がたくさんあります。村長の座をおびやかそうとするアヌシュカなどは嘘つきで乱暴者。権力を手に入れようと画策するなど、森のキャラクターたちの関係性は人間社会の縮図のようです。
「そうですね、子供のためにとは思っていたけど、完全に子供向きの映画にするつもりはもともとなかったのです。子供は大人と同じくらいの理解能力はあると思っているので、この映画には「死」のエピソードも入れています。最初は慣れないテーマに困惑する子はいるかもしれないけど、それを教えるのは大人がやるべきことですからね。
それに私自身も大人ですから、自分も楽しめる映画にしたいとも思いました。『シュレック』と言う映画は大人も楽しめるでしょう。ああいう作品も目指したのです」。
【父親の映画に出たくない! 】
さて、映画『クーキー』の主演俳優(&クーキーの声)は、スヴェラーク監督の息子のオンジェイくん。映画は2010年製作で出演当時はまだお子様だったオンジェイくんですが、5年たった今、ハンサムなチェコ男子に成長しました! この美男ぶりならショービジネス界で十分やっていける! と、記者は思いましたが、本人、映画出演は嫌で仕方なかったそうです。
「確か7、8歳のときだったと思うけど、父親から映画出演の話を聞かされ、絶対に映画の仕事に関わりたくなかったから、イヤだと抵抗した記憶はあります」(オンジェイ)
「彼に映画出演の話をしたとき、あまりに嫌がるので驚いてしまったんですよ。私は自分の父親とも映画製作をしているので、息子が出演してくれれば、仕事中も一緒にいられるし、いいチャンスだと思ったんですけどね。しかし、思いがけずイヤがられたので(笑)、そのときは諦めました。でも映画製作が資金の問題で進まず、やっと再スタートするとき、もう一度、息子に声をかけたらOKだったのです」(監督)
彼も成長し、父の気持ちがわかったのかもしれません。実際に出演した感想は実に楽しいものだったようです。
「他の監督の映画に出演するより、父の映画の仕事の方が楽しいんじゃないかな。撮影現場には母も来てくれたし、カメラマンなどスタッフは父と仲のいい人達だったから、僕も友だちになれたし……うん、楽しい時間でしたよ」(オンジェイ)
スヴェラーク監督はオンジェイくんの「他の監督の映画に出るより、父の映画の現場の方が楽しいはず」という言葉に「本当に? (笑)」と、とてもうれしそうな笑顔を返していました。なんと微笑ましい父と息子なのでしょう!
【主演俳優を守り通した監督】
実はこの映画、スヴェラーク監督のお父さんも映画界の人。脚本家&俳優のズディニェク・スヴェラーク氏です(この映画でも村長の声で出演しています)。つまり、スヴェラーク家は映画一族なわけで、オンジェイくんが俳優デビューしたのも、運命だったのかなという気も。しかし、監督はオンジェイくんがショービジネス界の餌食にならないように細心の注意をはらってデビューさせたのです。
「映画に出演して、取材を受けたり、写真を撮られたり、チヤホヤされてスターになったと勘違いし、自分の人生に大きな期待をさせてはいけないと思ったのです。オンジェイはプレミアにも参加させていません。今回、日本のプロモーションに来たのは、あれから5年たって、彼自身そういうことがわかってきているので大丈夫だと思い、連れてきたのです。」
ちなみにオンジェイくんにはお兄さんがいて、映画学校で編集を学んでいるそう。
「兄の友達の監督作にはときどき頼まれて出演していますけど、僕自身は俳優になるつもりは全然ないです。父が関わっている作品以外は出演するつもりはありません。」(オンジェイ)
「私は父とも映画の仕事をしているから、家族と映画を作ることに慣れているのです。オンジェイは音楽に興味を持っているので、将来、音楽で私の映画に関わってもらおうかなと考えています。」(監督)
兄は編集者、弟は映画音楽、そして父は監督! スヴェラーク一家のファミリービジネスの夢、ステキです!
5年前のオンジェイ君が見られる映画『クーキー』。素朴なパペット映画だけど内容は深い! チェコの森のファンタジー映画をぜひ楽しんでください。
取材・執筆=斎藤 香(C)Pouch
『クーキー』
2015年8月22日より、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
製作・監督・脚本:ヤン・スヴェラーク
出演:オンジェイ・スヴェラーク、オルドジフ・カイゼル、ズディニェク・スヴェラーク
(C)2010 (C)Biograf Jan Sverak, Phoenix Film investments, Ceska televise a RWE.
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