main_large
[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、韓国映画『明日へ』(2015年11月6日公開)。韓国の厳しい雇用問題のあおりで、女性従業員たちが大量不当解雇という理不尽な扱いを受け、権利を訴えるために立ち上がり闘った実在の事件を映画化。女性たちの姿が実に熱い映画です!

監督はデビュー作から一貫して女性を主人公にした作品を発表している、1971年生まれの女性監督プ・ジヨン。

また世界的な人気のK-POPグループ「EXO」のD.O.(ディオ)が、本名のド・ギョンス名義でスクリーンデビュー。ファンの間では公開が待ち望まれている作品でもあります。

【物語】

売上トップクラスのスーパーマーケット「ザ・マート」でレジ係として働くソニ(ヨム・ジョンア)は、入社5年目でやっと正社員の道が開かれました。夫は出稼で不在。高校生の息子テヨン(ド・ギョンス)とまだ幼い娘がいるけど、生活は火の車。正社員になれて、やっと少しは生活が楽になるかも……と思ったら、本社が突然、女性の従業員に対し雇用契約解除を申し渡します。これからは外部に委託していく方針を打ち出したのです。

正社員になる夢を絶たれたソニだけでなく、多くの女性従業員にとっては死活問題。彼女たちは労働組合を作り、会社に対して闘いを挑みますが……。

【 “非正規大国” 韓国にメスを入れる】

世界でも ”雇用が不安定な国” と言われる韓国。実はこの映画の物語は、ある事件をベースにした実話に近いものなのです。

それは、2007年7月に施行された「非正規職保護法」に先だって、大手会社が女性従業員500名に雇用契約を打ち切るという暴挙に出たという一件。「不当な大量解雇」に怒った女性従業員たちは大手スーパーを占拠し、会社に対して闘いを挑みますが、会社は警察を介入させて強制的に鎮圧。暴力的な行為によって、従業員たちが傷を負ったという解雇をめぐる大事件です。

sub4_large

この映画は、不当な解雇にあったこの実話の女性たちをモデルに、力を合わせて立ち上がり、自分たちの権利を主張していく物語。記者(私)は映画を見て怒り心頭でしたよ。このような理不尽なことがまかり通るのかと。残業続きで仕事もハードな上、この不当な扱いは堂々ブラック企業入りです。

大々的に報道された一件のようですが、こうやって映画で再び蒸し返すのもありかと。もう2度と起こしてはいけないというメッセージを込めて。

【EXOのD.O.(ディオ)が映画デビュー】

11月4日に日本デビューした韓国のアイドルグループEXO。映画『チャンス商会~初恋を探して~』のチャンヨルに続き、D.O.(ディオ)も、ド・ギョンス名義でスクリーンデビューしました。

『チャンス商会』のチャンヨルはかわいいキャラでしたが、D.O.はクールキャラの高校生テヨン役。不当な解雇で家族と仕事の狭間で苦しむ母の気持ちが最初はわからず、イライラして荒れてしまうのですが、妹にはやさしくラーメン作ってあげるなど多様な表情を見せてくれます。

母が会社側との闘いで家庭を顧みる余裕がなくなってしまうので、テヨンもある種、この問題の被害者でもあるのです。EXOでの活動では見られないD.O.の表情はファンには新鮮でしょう。
sub1_large

【他人事じゃない雇用問題】

日本でも、ブラック企業や派遣切りなどの問題は山積みなので、この映画で描かれる問題も他人事ではありません。明日は我が身と思いながら見ると、背筋がゾっとします。こんな無慈悲で理不尽なこと、起こってほしくない。仕事できなくて切られるならまだしも、仕事もちゃんとして表彰されるほどの人材なのに、一方的に解雇されてしまう。それでは何のために頑張ってきたのやら……。

映画を見ながら、闘う彼女たちと一緒に叫びたい気持ちになりますが、暖簾に腕押しなんですよね。頑張って訴えても企業は応えてくれない。

でも小さな声を集めて大きな声にしてぶつけることはできるんだ、事態を好転させることもできるんだということがわかる映画。デート向きじゃないけど、みんなで見て話しあってほしい作品です。

執筆=斎藤 香(C)Pouch

sub3_large

sub2_large

『明日へ』
2015年11月6日より、TOHOシネマズ新宿ほか全国順次ロードショー
監督:プ・ジヨン 出演:ヨム・ジョンア、ムン・ジョンヒ、キム・ヨンエ、キム・ガンウ、ド・ギョンス、チョン・ウヒほか
(C)2014 MYUNG FILMS All Rights Reserved.

▼映画「明日へ」予告篇