【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、レビューをします。
今回ピックアップするのは沢尻エリカ、吉沢亮が出演する犬童一心監督作『猫は抱くもの』(2018年6月23日公開)です。私はこの映画を見て衝撃を受けました。「映画?舞台?どうなってるのコレ!」という、まったく見たことのない世界がスクリーンに描かれていたからです。では物語から。
【物語】
田舎町のスーパーで働く沙織(沢尻エリカ)は、元アイドル。歌手として成功することを夢見ていましたが、現実は厳しく、所属していたグループ「サニーズ」は解散。彼女は自分のことを誰も知らない田舎に引っ越し、経歴を隠してスーパーでレジ打ちの仕事をしていました。
退屈な毎日、いいことなんて何もない……。そんな日々を過ごしている沙織が唯一心を許しているのは、スーパーの倉庫でこっそり飼っている猫の良男(吉沢亮)。彼女は良男にだけは素直に何でも話せるのです。そして沙織に愛されていると確信している良男は、「自分は猫ではなく人間だ」と思い込んでいるのですが……。
【可愛く弾ける吉沢亮の猫演技が最高すぎる!】
沢尻さん演じる沙織が勤務するスーパーマーケットの中は、舞台上で演出をしています。まるで映画で舞台を見るような世界観です。沙織がレジでお客さん対応をしているシーンから倉庫へと転換する様も舞台。そして、そこにいるのは猫の良男に扮した吉沢さんです!
この猫演技をする吉沢さんが最高なんです。沙織のグチを一生懸命聞いてあげたり、ヒザに乗ってゴロニャンと甘えたり、沙織にお腹をナデナデされて気持ち良すぎてピューっと飛びあがったり、吉沢さんのしなやかな猫演技に目が釘付けになります。もう吉沢さん、可愛い過ぎる!
【うまくいかない現実と葛藤する沙織に大共感】
アイドルとしてデビューしたけど売れなかったという、沙織の大きな挫折経験は、誰にでも話せることではありません。だからこそ、彼女にとって猫の良男の存在は大きいのだと思います。
妄想好きな沙織は「こうなればいいな」という夢物語をすべて良男に語り、辛い気持ちを振り払っているのですが、そんな二人のシーンが心地よいのは、良男が沙織のすべてを受け止めているから。良男がいなかったら、沙織はどうなっていたんだろうと思います。
その沙織を演じる沢尻さんの演技もグッとくるものがあります。歌手の夢が破れ、行き場のない思いを抱えながらも“歯を食いしばって生きてる感”がすごい伝わってくるのです。沢尻さんの力強い演技が沙織の心にパワーを注入している感じがしました。
【コムアイさんのネコ感がハンパない!】
また良男の猫仲間のキイロとして登場する、水曜日のカンパネラのコムアイさんは、演じているというより、まんまコムアイさんでした。
彼女自身が猫っぽいから、違和感ゼロ! コムアイさんは本作の音楽も担当しているので、映画では彼女の歌声も聴くことができます。
【猫の良男ファンが増えそうな予感】
本作は、物語、映像、演技、すべてにチャレンジがつまっています。舞台的空間だけでなく、現実の風景を撮影した実写シーンもありますし、手描きのアニメーションを使ったシーンも挿入されており、それらがちゃんとひとつの物語の中にピタっとはまって、まるでコラージュのようです。斬新な作風ですが、物語の軸である「沙織の葛藤と再生を描く」というところにはブレがないので、アラサー女性の共感度はかなり高いと思います。さすがベテラン犬童一心監督です。
本作は猫を擬人化させることに注力していて、野生の猫たちもみんな役者さんたちが演じているため、実はそこまで猫は出てきません。だけど、その擬人化の部分をぜひ楽しんでほしい。とにかく良男がめちゃくちゃ魅力的なので、この映画で吉沢亮ファンというか猫の良男ファンが増えそうな気がします!
執筆=斎藤 香(c)Pouch
『猫は抱くもの』
(2018年6月23日より、新宿ピカデリーほか、全国ロードショー)
監督:犬童一心
原作:大山淳子(「猫は抱くもの」キノブックス刊)
出演:沢尻エリカ、吉沢亮、峯田和伸、コムアイ(水曜日のカンパネラ)、岩松了
(C)2018「猫は抱くもの」製作委員会
▼吉沢さんが演じたロシアンブルーの猫は、撮影後に沢尻さんがそのまま家族として引き取ったそうです!
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