【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回は嵐の二宮和也さん主演映画『浅田家!』(2020年10月2日公開)をピックアップします。
家族を被写体に、数々のコスプレ写真による作品集「浅田家」で、2008年に写真界の芥川賞と言われる「第34回木村伊兵衛写真賞」を受賞したカメラマンの浅田政志さんを主人公にした作品。
演出は『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督です。試写で見せていただきましたが、ユーモアと感動と愛に満ち溢れた素敵な映画でした~! では物語から。
【物語】
写真好きの父(平田満)からカメラを贈られた政志(二宮和也)は、そのまま写真好きの青年になります。写真学校での作品作りで、彼は少年時代に家で起こった大騒動を思い出し、看護師の母(風吹ジュン)が務める病院で家族を撮影。
それがきっかけで政志の家族写真はスタートします。テーマは「家族がなりたかった職業」。
その写真を収めた「浅田家」という写真集が、なんと「木村伊兵衛写真賞」を受賞し、彼にもとには「家族写真を撮ってほしい」という依頼が舞い込むようになるのです。
【2冊の写真集から誕生した浅田政志の物語】
も~本当に、すごくほっこりいい気持ちになれる映画でした!
「家族とは何か、家族の愛とは何か」ということが、心温まるエピソードとともに思いっきり込められている映画です。
本作は、写真集「浅田家」と、泥だらけになった写真を洗浄して返却する東北大震災のボランティア活動を撮影した「アルバムのチカラ」の2冊をもとにした映画で、写真を通した家族の姿が描かれています。
【コスプレ家族撮影の裏側で起こったこと】
めちゃくちゃ楽しいのは、やっぱりコスプレ撮影のシーン。政志が家族こそ自分の撮るべき写真であることに気づいて、彼らがなりたかった消防士、レーサー、極道の妻などに扮して撮影していくんですが、これに付き合う家族の苦労も描かれています。
特にお兄ちゃんの幸宏(妻夫木聡)は、消防車を借りたり、レース場の撮影許可をとったりという交渉役を政志に押し付けられて、いちばん大変。でも「無理!」と言いつつ、ちゃんと成立させちゃうんだから、お兄ちゃん、素晴らしい。
とにかく家族全員が、政志のやりたいことを全面的に応援する姿勢がすごくて「愛だなあ」と。それがスクリーンから伝わるから、笑いながら心が温かくなるんです。
【「アルバムのチカラ」から見える、それぞれの家族の風景】
そして本作の後半は「アルバムのチカラ」をもとにしています。
政志の依頼人の中に東北の方がおり、震災後、政志が安否を確認するために東北へと足を運んだことから、彼は写真洗浄ボランティアとして働く小野くん(菅田将暉)に出会います。
並べられた写真の中から、必死に家族を探そうとする人たち。その姿を見ていると、写真は、遠くに行ってしまった家族とも繋いでくれる、もう会えないと思っていた人に会わせてくれる。本当に写真の力って偉大だなと、胸が熱くなりました。
特にずっとお父さんの写真を探している少女と政志の出会いは印象的。「お父さんの写真だけないの」という少女の言葉に、政志は自分と父のエピソードを重ね合わせて、ある答えを出してあげるんですね。これは、家族と写真を強く結びつける最強のエピソードだと思いました!
【政志のしょーもなさも天才的なところも包み込んだニノの芝居】
政志は写真家として有名になりますが、そこに至るまでは、けっこうダメ男です。写真家じゃなかったら、どうなっているのだろうか……と心配になるほど。
上京して幼馴染のの若菜(黒木華)の家に転がり込むし、撮影スタジオの仕事もやる気ない感じだし、そもそもなかなか写真撮らないし……。「浅田家」に行きつくまでに紆余曲折があるのですが、二宮和也さんは、そんな政志の情けなさも「しょーがないなあ」と思えるような魅力を持って演じています。
また政志はけっこう泣くんですよ。その涙の中でも、重い病気の少年とその家族の写真を撮ったときの涙が秀逸で。命の灯を撮影しているとでも思っていたのか、うるんだ眼でファインダーをのぞく強い眼差しに感動しました! ニノ、さすがです!
政志はひらめかないと行動に移さないので、家族はやきもきするのですが、政志を急かさない。彼がやるときはやる子だと知っているから待つ。彼の幸せを願っているから、無理強いしないで待つ。
息子が帰ってくるのを待つ姿さえ「愛だなあ」と感じさせる映画『浅田家!』。ずっと家族映画を撮ってきた中野量太監督だからこそできた作品でしょう。
執筆=斎藤 香 (c)Pouch
『浅田家!』
(2020年10月2日(金)より全国東宝系にて公開)
監督・脚本:中野量太
出演:二宮和也、黒木華、菅田将暉、風吹ジュン、平田満、渡辺真起子、北村有起哉、野波麻帆、妻夫木聡ほか
(c)2020「浅田家!」製作委員会
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