【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、浅原ナオトの小説「彼女が好きなものはホモであって僕ではない。」の映画化作品『彼女が好きなものは』(2021年12月3日公開)。
原作は、2019年に「腐女子、うっかりゲイに告る」(NHK)のタイトルで話題になったドラマですが、本作はスタッフ、キャスト共に全く異なる映画版です。
試写で見せていただきましたが、とても繊細で奥深くしみじみ感動できる作品でした。では物語から。
【物語】
安藤純(神尾楓珠)は自分がゲイであることを親にも友人にも隠して生活しています。
ある日、純はクラスメイトの三浦紗枝(山田杏奈)が、BL漫画に夢中にあることを知ってしまい、彼女を慌てさせます。紗枝は、中学時代「BL好きの腐女子」といじめられていた経験があり、純に「誰にも言わないで」と口止めします。
これをきっかけに二人は急接近。純に片思いしていた紗枝は彼に告白をして、二人は付き合うことになり、純は「もしかして女性と恋愛できるかも」と淡い期待を抱きますが……。
【セクシュアルマイノリティの壁がとても切ない】
セクシュアルマイノリティの問題は、いまでこそ公に語られるようになっていますが、正直に語れない事情を抱えている方も多いと思います。
この映画の主人公の純もそのひとり。年上で既婚者の同性の恋人(今井翼)がいて、ゲイであることを自覚していますが、親にも友達にも言えないまま、他者と深入りせずに日々過ごしています。
シングルマザーの母親(山口紗弥加)は、息子の幸福を願っているいいお母さん。だからこそ、純は「結婚して、子供をもうけて、お父さんになる」ことがお母さんを喜ばせることであると思っています。
でも彼の恋愛対象は男性であり、それを知ったら、お母さんが悲しむと思い、本当のことが言えず……。お互い大切に思っているのに、カミングアウトの壁の厚さを感じてとても切ないです。
【BL好きの紗枝との出会いが純を動かす!】
一方、クラスメイトの紗枝は、純にBL好きが知られたことをきっかけに彼に好意を抱くように。
純は「普通の恋愛がしたい」と紗枝の告白を受け止めますが、彼女と付き合うことでますます自分が男性しか愛せないことを強く感じるようになり、加えて、紗枝といるときに年上の恋人が妻や子供と一緒にいる姿を見て、嫉妬で大混乱!
そしてついに、男性しか愛せないことを紗枝に知られ、彼女に打ち明けて……。このあとの衝撃の展開は映画を観ていただきたいのですが、純は誰にも理解してもらえないと思っていましたが、そうではなかったのです。
【純はひとりぼっちじゃない!】
『彼女が好きなものは』は、セクシュアルマイノリティの純と彼を取り巻く周囲の人々の思いにも寄り添うように物語は進んでいきます。
ずっと隠してきたことを知られて、最初こそ死にたいくらい混乱する純ですが、差別の目を向ける人はいるものの、そうではない人もいること、セクシュアルマイノリティだからといって、安藤純という人物は変わらないことを、彼自身も周囲の人間もわかっていくのです。
例えば、趣味嗜好が際立って個性的だからと言って、その人の優しさや誠実さは変わりませんよね。それと一緒だと思うんですよね。紗枝はそういう理解ができる子だったし、最初は驚いてとまどっていた幼馴染の亮平(前田旺志郎)も「純は純のままだ」と思うように。
そうやって周囲との壁が少しずつ溶けていき、純は自分と向き合えるようになるのです。
【俳優陣がみんな素敵!】
キャストはみんなよかったですね! 一番難しい安藤純役を体当たりで熱演した神尾楓珠さん。イケメンだけど陰があり、ジレンマを抱える純を澄んだ瞳で表現していました。
山田杏奈さんは、綿矢りさの同名原作の映画化『ひらいて』の暴走する女子高生が素晴らしかったのですが、本作ではBL好きの女子高生。安定したお芝居で安心して観らていられました。
個人的にいちばん良かったのは、純の幼馴染の亮平を演じた前田旺志郎さん! 毎日ふざげて純に抱きついていたけど、彼がゲイだと知って、じゃれることができなくなってしまう。そんな微妙な思いがありつつも、絶対に純を突き放さない、側にいてあげようとするやさしさに癒されました!
キラキラした青春映画とは一線を画す映画『彼女が好きなものは』。観終わったあと、誰かと語り合いたくなる、おすすめ青春映画です。
執筆:斎藤 香 (c)Pouch
『彼女が好きなものは』
(2021年12月3日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
神尾楓珠 山田杏奈
前田旺志郎 三浦獠太 池田朱那
渡辺大知 三浦透子
磯村勇斗 山口紗弥加 / 今井 翼
監督・脚本:草野翔吾
(c)2021「彼女が好きなものは」製作委員会
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