「日本の三大酒処」と呼ばれる土地、それは兵庫の灘、京都の伏見、広島の西条(さいじょう)です。関西出身の私は灘と伏見については知っていたのですが、西条については失礼ながら、つい先日まで地名も知りませんでした。

何度も広島に遊びに行っているのに、日本酒のイメージが全然なかった私。これはもったいなさすぎるので、2024年2月に蔵元「西條鶴」さんで、仕込み時期限定の特別な「酒蔵物語体験ツアー」に参加してきました!

西条における日本酒づくりの歴史、携わる人々の熱意、原料から風土、作り出される過程……すべてに影響を受ける日本酒の奥深さをこれでもかと体感。広島の新たな魅力に触れたので、ご紹介させてくださいっ。

【明治創業の酒蔵「西條鶴」】

広島県東広島市にある西条町。この地区は明治時代から酒造が盛んだったそうで、現在は7つの蔵元があります。「西條鶴」は明治に創業、その当初から現存する酒蔵や母屋などは国の登録有形文化財に指定されているほど歴史ある蔵元です。

この時期は「西條鶴」の銘酒である純米大吟醸原酒「神髄」の仕込み時期ということで、普段なら絶対に見ることができない「神髄」のもろみを見せてもらえる上に、できあがった「神髄」を瓶詰め後に送付していただけるというかなり特別なツアーでした。

入口〜酒蔵までの道のりですでに歴史の厚みを感じる佇まい。入口から通り抜けできる土間があり、奥の酒蔵へと続いていく建物の構造は、京都の町家にも趣が似ています。

【米と温度と人の手で造る酒】

“酒都” 西条の成り立ちや、「西條鶴」の歴史などのお話を聞き、いよいよ酒蔵見学です。酒蔵の中には、大きな機械もあれば木製の道具もあり、効率化と伝統の共存がこれだけでも見て取れます。

見学でひときわ見応えを感じたのは、日本酒の大元ともいえる麹を育てる「麹室(こうじむろ)」と、まさに発酵中の「もろみ」の様子

麹室は、蒸した米に種となる麹菌を振りかけ、湿度と温度を一定に保って麹を育てるための部屋。扉を二重にして徹底した温度と湿度の管理がなされています。が、それでもやはり杜氏が目で見て、手で触って、麹の状態を確認するのだそう。

ちなみに酒蔵は納豆厳禁! 持ち込むのはもちろん、酒蔵見学当日の朝は食べることもNG。納豆菌は強く、熱湯消毒や石鹸による手洗いでも生きてしまうのだそう。その菌が麹米に付着すると変質してしまうんですって。

そうやって大切に育てた麹を仕込み水とともに「酒母」として育て、さらに米や水、麹と混ぜて最終的な酒(原酒)のもとになるのが「もろみ」です。こちらも発酵で温度が上がりすぎないよう一定に保ちつつ、進み具合を調整していくそう。

今回のツアーでは「神髄」のもろみを直接見させていただいたのですが、ぶわっと湧き上がるお酒の香りのあと、桶の中からシュワシュワ……プチプチ……と音が聞こえてきて感動!

米から麹、酵母を育て、その土地の水と気候と、人の手でちゃんと世話をする……日本酒は自然の力と熟練の知恵と技術、そして経験の結晶なのだなあと実感しました。

【試飲タイムが充実しすぎてた】

酒造りの工程に沿って酒蔵内を見学させていただいたあとは、お楽しみの試飲タイム! この日は3種のお酒を飲み比べたほか、おみやげ販売コーナーで通常の試飲商品として提供されているものもいくつか特別に味わわせていただきました。

瀬戸内海に面していて、牡蠣をはじめとする海産物が美味しい広島。「西條鶴」の日本酒は、比較的味の濃い広島の料理に合うように作られているんだとか。お刺身も切り方が分厚いので、どっしりとした魚の脂にも負けない味わいのお酒になっているんですって。

たとえば「酒蔵限定酒・杜氏入魂無濾過純米生酒」は、辛口だけどちゃんとお米の甘みやまろやかさを感じる、コクのある味わい。食事のほうがお酒を引き立てるような、お酒を “お酒 ” としてしっかりと堪能できるお味。

いっぽう純米酒「大地の風」は、なめらかだけどスッキリもしていて、白ワインのような軽やかさがあるんです。そのため「食事に合う」という意味ではこちらのほうが相性を選ばず、和食はもちろん洋食にも合う味わいに感じました。

実際に素材の説明を聞き、米づくりの過程を見てからの試飲では、よりいっそうお酒の味の違いや奥行きも感じられた気が。そういう新しい「日本酒の味わい方」が経験できたことも、とても楽しかったです。

【杜氏から伝わった魅力】

見学のあいだ、酒造りを解説してくださったのは、杜氏の宮地さん。原料となるお米の種類についての説明や、道具の紹介などのお話の端々に、酒造りへの愛が溢れて出ていました。

たとえば、木の道具を使うと醸成の変化をはっきりと感じられ、木という素材の良さを実感するという話。寒い時期の仕込みは本当に手が冷たいけれど、洗った道具を乾かすための陽の当たる干し台の景色が好きだという話。

そういう話をしながら目をキラキラとさせる杜氏の様子は本当に嬉しそうで、聞いているこちらも「この人が醸す日本酒はどんな味がするんだろう?」と。ここまで日本酒造りを愛して情熱を傾けている人のお酒が美味しくないはずがない、と感じさせてくれるのです。

酒蔵見学を通して「作り手の熱意が直接伝わってきた」というのも、この体験の素晴らしかった点です。

【大人の社会科見学としてぜひ!】

そんなこんなで歴史・酒造り・試飲と酒蔵見学をがっつり楽しませていただきました。つい先日、この日見学したもろみから作られた「神髄」が自宅に届き、いつどんな料理といただこうかとワクワクしているところです(笑)。

なお「神髄」にまつわる特別回は2月に2回の限定開催でしたが、通常のツアーは1月〜3月の土曜に開催されています。これは日本酒好きの方はもちろん、お酒がそれほど得意じゃなくても、いわゆる “大人の社会科見学” が好きな人にはぜひ体験してほしい! 日本酒づくりは紛れもなく日本の伝統のひとつで、それを支える人々が存在するのだと実感できるはずです。

これからは、広島に遊びに行ったら必ず広島産の美味しいものと一緒に日本酒もいただこうと思います!

■訪れた場所

西條鶴醸造株式会社
〒739-0011広島県東広島市西条本町9-17
TEL 082-423-2345/FAX 082-422-8272
「酒蔵物語体験ツアー」の開催日、参加費用など詳細は参考リンクからご確認ください

参考リンク:酒蔵物語体験ツアー
執筆・撮影:森本マリ
Photo:(c)Pouch
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