【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、第96回アカデミー賞で作品賞、脚本賞にノミネートされたラブストーリー『パスト ライブス/再会』(2024年4月5日公開)です。試写で鑑賞しましたが、繊細で美しい映画でしたよ。では、物語からいってみましょう。

※ネタバレが少しあります!※

【物語】

12歳のノラ(グレタ・リーさん)とヘソン(ユ・テオさん)は両思い。しかし、海外移住のためノラはソウルから離れ、ふたりは離れ離れになってしまいます。12年後、24歳になったノラとヘソンはオンラインで再会。ノラはニューヨーク、ヘソンはソウルで暮らしていたため、再会できないままオンラインでの会話は終わりに。

さらに2人が36歳になった12年後、ヘソンはニューヨークへ。ノラはアーサー(ジョン・マガロさん)という作家の夫がいましたが、それを承知でヘソンは会いに行くのです。

【美しい映像に目を奪われる】

まず目を奪われたのは映像の美しさ! ソウルもニューヨークも絵になる街だけど、光の使い方が上手で、どのシーンも切り取って飾っておきたいくらい美しかったです。その中で展開される男女のラブストーリーですから、没入感半端ないです。

演出は韓国のセリーヌ・ソン監督。初監督作とは思えない洗練された演出で、映像と物語をリンクさせるセンスの良さ! 2023年度、各映画賞を席巻したのも納得のクオリティです。

【新しい扉を開く女と未練を隠さない男】

物語は、ザ・すれ違いラブストーリー。心のすれ違い、タイミングの違いが、ふたりの恋愛を決定づけたといってもいいと思います。

ノラとヘソンは12年ぶりにオンラインで再会して「やっぱり好きだな」とお互い思いを募らせますが、全く進展しないので音信不通に。それから12年後、「やっぱりノラに会いたい」とニューヨークへやってくるヘソン。彼女もヘソンを歓迎します。

ニューヨークの街を歩くふたりを見ていて思ったのは、ノラにとっては懐かしくてスイートな思い出の彼氏。でもヘソンにとっては現在進行形の愛する彼女ということ。ヘソンにも彼女がいた時期があるけど、ノラのことが忘れられなかったから会いに来たわけです。

距離を縮めたいけど、縮めることはできない関係。またノラはちょっと思わせぶりな態度をとるんですよね。ずるいなと思いつつ、そのもどかしさ焦ったさが、すごくリアルに胸に迫りました。

【ノラの夫がいい人過ぎて感動する】

本当は、ノラだってヘソンと再会して心が動かないことはなかったと思うのですが、ブレーキになっていたのはアーサーという夫の存在ではないかと。めちゃくちゃいい夫なんですよ!

アーサーはノラのことを一途に愛していて、ノラも彼の気持ちがわかっているからこそ、ヘソンに会いに行くときも内緒にせず、アーサーに話しますし、後半は3人で食事もします。アーサーは韓国語を話せないので会話に入っていけませんが、根気よくふたりに付き合うんです。私だったら、この夫を裏切ることはできないなあと思いました。

【最後に打ち明けるヘソンの気持ち】

ネタバレになるので詳細は言いませんが、ヘソンが自分の気持ちをノラに語る後半のシーンは、男性の方が恋愛において繊細なんだとつくづく思いました。ちょっと厳しい言い方をすると「未練がましい」というか……。

「だったら、なんでもっと早く会いに行かなかったの?」と言いたくなりましたよ。だから24年もかかったすれ違いの恋になったのでは!って。

24年ぶりの再会で燃え上がる恋……的なものを求めて観ると、淡々としているので肩透かしかもしれません。刺さる人と刺さらない人、極端に分かれそうな映画なので、見終わったあと、あれこれ語るのも楽しいと思いますよ。

執筆:斎藤 香(C)Pouch
Photo:Copyright 2022 © Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

パスト ライブス/再会
2024年4月5日より全国ロードショー
監督・脚本:セリーヌ・ソン
出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ