[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今月のピックアップ、明日15日公開の映画、市川海老蔵と瑛太共演、三池崇史監督作の『一命』です。カンヌ映画祭に出品され、壮絶な切腹シーンでは席を立った観客もいたという噂ですが、実際に観て驚愕! 私は2D上映で観ましたが、瑛太演じる浪人・求女の竹刀による切腹シーンは生々しく痛々しく、そのシーンがいまだ脳裏に焼き付いて離れません。これが3Dになったら……と思うとクラクラしてしまいます。

物語は、求女が切腹をしなくてはいけなかった理由が核になっています。市川海老蔵演じる半四郎は娘(満島ひかり)と孫、そして婿である求女との貧しい日々を振り返ります。貧しさゆえに、妻子を守るために、武士のプライドを捨てた求女ははたして本当に惨めなのか……。その真実は、震災と不況にあえぐ、いまの日本に通じるものがあるようです。

この物語に心を動かされたのは、『ラストエンペラー』でアカデミー作品賞を受賞したプロデューサーのジェレミー・トーマス。これは日本だけではなく世界に発信したい物語だと語っています。
「この映画は日本人の礼節や威厳を描いている。設定は江戸時代だけれど、現代にも通じる精神を見せてくれるし、主人公たちの人としての誇りを失わない生き方は、世界の人にとって模範になるのではないか」

トーマスが製作者のひとりに名を連ねてスタートした本作は、世界に与えるインパクトとして、時代劇初の3D映画として制作しました。最先端の3D技術を誇る3ALITY社のシステムを起用した本作は、来年公開の『The Amazing Spider-Man』と同じシステムを起用。撮影では監督&スタッフ一同、マイ3Dメガネを用意。モニターチェックのたびに、周りに黒いサングラスのスタッフが大集合! それはそれは異様な光景だったそうです。

その結果、三池監督の演出&役者たちの演技を一段とパワフルに魅せた3D映像が認められ、『一命』は、米・サンフランシスコのパロアルト国際映画祭で、PAIFF&Dolby3D賞を受賞! 技術的かつ芸術的な3D映像の作品に贈られる賞で、本作はその第1回目の受賞作品となったのです。

三池監督は「3D映画により、2D映画の何かが失われるのではないかとの挑戦でしたが、得るものはあっても失うものはない。映画の未来に乾杯です」とコメント。世界をターゲットと掲げてきた目標をまずはひとつクリアしたわけですね。

でも3Dばかりに目を奪われてはいけません。瑛太の渾身の演技、海老蔵の大立ち回り、満島ひかりの薄幸さに加え、武士のプライドを懸けた物語には、特撮を超えた感動がありますよ。

(映画ライター=斎藤香

『一命』
10月15日公開
監督:三池崇史
出演:市川海老蔵、瑛太、満島ひかり、竹中直人、青木崇高、新井浩文、波岡一喜、笹野高史、中村梅雀ほか