最近、国内外のサイトで話題になっているアートがあるんです。

それは……ビニールでピシーッと密封された状態で横たわる、ふたつの人形の画像。かな~り不気味……と思ったら、な、なななんと、本物の人間だというんです。これまたビックリ!!!

FLESH LOVE』と題されたこちらの写真集には、年齢も性別もてんでばらばらのカップルたちが真空パックされている姿がずらり。彼らの多くはオールヌードもしくはセミヌードで撮影に挑んでおり、そのためなのか、どのカップルもふたりの間に流れる密度の濃い瞬間をそのまま閉じ込めてしまったかのような風情を醸し出しています。

いったい、どうやって人間をラッピングしているのだろう?

今回は見る者に強烈なインパクトと衝撃を与える写真集『FLESH LOVE』の作者、PHOTOGRAPHER HALさんに、撮影の方法や、テーマなど、作品に関して色々とお話を伺ってみましたぞ。

Q まず、今回『FLESH LOVE』の発案に至ったきっかけはなんですか? また写真集のテーマも教えてください。

「ファースト写真集の『Pinky & Killer』を撮影しているときに気づいたのですが、カップル撮影のキモはふたりがどれだけ密着するかにあると思いました。そのうち、ある撮影がきっかけで「バスタブ」がカップルを密着させる装置になるということに気がついたのです。それにバスタブは誰にでも身近な道具(日用品)なので、撮影にリアリティーが出るのも良かった。

その後、日用品でカップルを密着できるものはないかと考えているうちに、布団圧縮袋に思い当たりました。SMの世界でゴムの袋のなかで空気を吸引するプレイがあるのですが、そういったアンダーグラウンドカルチャーの側面が有るのも面白い。ライティングなど色々試行錯誤をしていくうちに納得いくものが撮れたので、シリーズ化するに至りました」

Q モデルになっているカップルの方々は、どういった経緯でモデルになったのですか?

「基本的にナンパです。ナイトクラブや酒場などで面白そうなカップルを見かけたら声をかけています。最近はmixi・twitter・facebookなどで募集したり、逆にメールやこれらSNSサイトからの志願も増えています」

Q モデルたちが圧縮されたビニール袋に密封されるというビジュアルが印象的ですが、撮影の際、酸素はどうしているんですか? また、撮影にかかった時間は?

「なかの人には息を止めてもらっています。その間は10秒。真空の完成度を高めるのに5秒、撮影に5秒。息を止めた状態で耐えられるみなさんの平均時間は15秒ほどなので、そこから余裕を見て10秒にしています。念のため、撮影時は1名のレスキュー要員に待機してもらっています。私に何か有った場合に袋を開けるのも、彼の役目。それからもし被写体が具合が悪くなったときのために、携帯酸素と頭を冷やすものは常備して撮影しています」

ラッピングされながらも一見清清しく見える作品の裏では、そんな万全の準備がなされていたんですね! 一歩間違ったら大変なことになってしまうから、当然といえば当然だけど、知れば知るほどアートって奥が深いなあ。

Q モデルのなかにはオールヌードのカップルもいますが、これはあなたの要望によるものですか? それともモデルのみなさんの意志ですか?

「この撮影では、被写体自身がどう写られたいかを重要視しています。そのうえでこの撮影方法は肌の色がとてもきれいに出ると思っているので、ヌードをすすめています。そういった経緯から、自分たちらしい服装で撮影する人もいれば、ひと肌脱ぐ人もいるというわけです」

Q それでは、写真集の中でそれぞれのカップルがとっているポーズも本人たちの意志ですか?

「まずは身体の凹凸や関節の位置などで、収まりがいいポーズを探す作業をします。パズルをするような感覚です。そのうえで私が細かなところを見ながら詰めていく作業をします。私は恋人と抱き合っていると、そのまま溶け込んでしまいたいと思うことがあるのですが、その感覚を作品に落とし込みたいと思っています」

Q 被写体になっているみなさんは、実にアバンギャルドな雰囲気をお持ちですよね。それはそういう方を敢えて選んでいるからなのでしょうか? モデルを選ぶ基準を教えてください。

「モデルさんはナイトクラブなどで目を引いた人を声かけしているので、自然とインパクトのある人に目が行きがちになります。だからといってインパクトを重視しているわけではなく、ふたりのバランスがとれているカップルを選んでいることが多いです」

Q  PHOTOGRAPHER HALさんの作品は、カップルの姿をとらえたものが印象的です。恋人たちの肖像を取り続ける理由を教えてください。

「ひとりの人よりもカップルでいる人の方が観察していてキャラクターが表によく出ているので面白いからだと思います。1+1=3のような感覚です」

作品を見ていると、以前の作品からどんどんカップルの距離感が縮まっているように感じられました(「普通のツーショット→風呂の浴槽→ビニール袋の中」など物理的に)。

Q 作品における過去から現在における距離感の縮まりは、意図してやっていることなのでしょうか? それとも気がついたらそうなっていたのでしょうか?

「カップルをどれだけ密着させるかをポイントに追求していますので、当然の成り行きです」

Q これからもカップルの肖像を撮り続けたいと思いますか?

「カップルを被写体でどこまでやれるか追求しています。やりようがなくなったらほかのモチーフを探すしかないですが、そのときはその作品に合わせ、PHOTOGRAPHER HALではない名前になっているかもしれません。これは一種のブランドのようなものです」

Q ご自身の作品が海外、特にフランスで注目されていることをどう思われますか?

「フランス人は情熱的なカップルが多いからこういった作品が好きなのかもしれませんね。フランスだけではなく世界中がこうなれば良いのになと思います」

Q では最後お伺いします。今後はどういった作品を思案しているのでしょう。もし展望があれば、教えてください。

「カップルを被写体にまだやりたい事があるので、しばらくネタは尽きなそうです」

丁寧にインタビューにお答え頂き、ありがとうございました!

恋人たちの肖像を新しいかたちで追求し続ける、PHOTOGRAPHER HALさん。彼の活動から今後も目が離せません。

(取材、文=田端あんじ/ 写真協力=PHOTOGRAPHER HAL)

PHOTOGRAPHER HAL
[略歴]
1971年 東京生まれ
大学でメカを学ぶ。
2004年よりカップルを撮り始める。

[写真集]
2011年 Flesh Love: 冬青社刊
2009年 Couple Jam: 冬青社刊
2007年 Pinky & Killer DX: 冬青社刊
2004年 Pinky & Killer:  私家版

▼愛のかたちはさまざま

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