[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは3月31日公開の『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』。1960年代のアメリカ南部を舞台に、人種差別が公然と続けられる町で必死に生きる”ヘルプ”と呼ばれていた黒人家政婦たちを描いた物語です。

有名スターが出演している映画ではないのにクチコミで素晴らしさが広がり、昨年、全米の映画界を席巻した本作。日本ではドラマ「家政婦のミタ」がお茶の間をにぎわしましたが、アメリカでも家政婦がスクリーンをにぎわしていたとは……偶然とはいえ驚きです。

雇い主は神様であり、どんな命令でも「承知しました」と任務を遂行しなければならないのはミタさんと一緒ですが、こちらの家政婦は誰もが理不尽な扱いを受けていました。どんなに優秀なメイドでも、それぞれが差別を受けて毎日苦しんでいたのです。そんな彼女たちが「メイドたちの心の叫びを綴りたい、本を出版したい」というジャーナリスト志望の女性スキーターに出会い、彼女に思いを託します。そしてスキーターとメイドたちの間に友情が生まれます。

実はこの作品、物語同様に原作も映画化も友情に支えられてここまできました。でもトントン拍子に決まったわけではありません。まず小説になるまでが大変だったのです!
原作者のキャスリン・ストケットは、5年を費やして書きあげたものの、なんと60名のエージェントに「NO!」と出版を断られたのです。「よく諦めなかったな~」と思いますが、彼女をサポートしたのが本作の監督であるテイト・テイラーでした。

テイラーとストケットは幼馴染。小説を読んだテイラーは「諦めるな! 出版されなくても自分が映画にする!」と言って励まし続けたそうです。そして、やっとエージェントが決まると、ストケットは出版前に映画化権をテイラー監督に渡したのです。

さらに! ミニーを演じたオクタヴィア・スペンサーは、ストケットとテイラー監督とは旧知の仲だったそうです。ストケットは執筆しているとき、ミニーのイメージをスペンサーに重ね合わせていたと語っています。どうりでドンピシャなキャスティングだったわけですね。

そして原作は、ストケットのデビュー作にもかかわらずニューヨークタイムズ誌のベストセラーランキング1位となり、103週に渡ってランクイン!テイラー監督にとってもデビュー作でしたが、興行収入1位を獲得し、大ヒットを記録しました。そしてオクタヴィア・スペンサーがアカデミー最優秀助演女優賞を見事受賞! 原作も映画も夢の階段をステップアップしてきたのです。

決して諦めなかった作家と応援し続けた監督の友情は、そのままスキーターとメイドたちの友情と重なりあいます。映画も素晴らしいけど製作裏話も感動するって凄い! もう記者なんてこれ書きながら、「そうか、夢って叶うんだ!」と俄然やる気になりましたよ。

そんな勇気と元気をくれる『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』ですが、この映画でミニーが、自分をクビにした雇い主に食べさせた復讐のチョコレートパイはかなりエグイです。勇気と元気どころかトラウマになりそうなほど……要注意ですよ。

(映画ライター=斎藤香

『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』
劇場公開日 2012年3月31日
監督: テイト・テイラー
原作: キャスリン・ストケット
出演: エマ・ストーン、ヴィオラ・デイヴィス、オクタヴィア・スペンサー、ブライス・ダラス・ハワード、ジェシカ・チャステイン
アリソン・ジャネイ、シシー・スペイセク、シシリー・タイソン メアリー・スティーンバージェン
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