[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは11月17日から公開する草彅剛主演作『任侠ヘルパー』です。人気ドラマの映画化で、監督は『容疑者Xの献身』などの西谷弘。西谷監督はドラマ「任侠ヘルパー」の演出も手掛けています。
でもキャストは主演の草彅剛以外はほぼ一新!(黒木メイサが友情出演)。テーマは共通していますが、ドラマを見ていなくても十分楽しめる映画『任侠ヘルパー』に仕上がっています。記者も実はドラマは未見だったのですが、映画だけでも大いに満喫。草彅剛の熱演に度肝を抜かれました!
ヤクザ界を抜け、堅気として生きる決心をした彦一。でもコンビニ強盗との格闘をきっかけに、再び刑務所入り。そこでコンビニ強盗の老人と再会し、大海市の獄鵬会と彫られた将棋の駒を渡されます。堅気になる決心をしたのに、また極道の世界へ。おまけにコンビニで一緒に働いていた成次が「アニキ~」と慕ってついてくる始末。
彦一は生きるために、獄鵬会組長から、老人相手の闇金の仕事をもらいます。老人の財産を奪い、生活できなくなった老人を地獄のような老人介護施設「うみねこの家」に入れて、生活保護と年金も奪ってしまうのです。仕事をこなして稼いでいた彦一だったけれど、何もわからず抵抗もできない老人たちを食い物にする仕事に嫌気がさしてきた彼は、ある考えを実行に移すことに。でもそれは獄鵬会の怒りを買ってしまい……。
おそらくドラマ「任侠ヘルパー」を見ていた人は、また彦一に会えるという喜びを感じるでしょうし、彦一を演じる草彅剛の素晴らしい演技を楽しみにしているでしょう。そして記者のように初めてこの物語に接した人は、凶暴と情熱と優しさを絶妙なさじ加減で見せていく草彅剛の演技に圧倒されるはず。こんなに芝居の引き出しが多い人だったとは!『任侠ヘルパー』を見ている間、記者はずっと草彅剛の凄さに見入っていましたよ。
「僕が彦一役で大切にしているのは、男らしさを雰囲気で伝えること。いつもどこかうまくいっていない彦一のフラストレーションは、忘れないでいたいですね。誰にでも日頃生活していて、うまく行ってないなと思うことがあると思うんですよ。その極端な形が彦一だと思います」と草彅氏は語っていますが、そうか、だからどこか彦一にシンパシーを感じるのかも。
男女関係なく、モヤモヤイライラすることはあるはず。弾けることができない、でもなぜなのか、どうしたらいいのかわからない。みんなが希望に向かって元気に歩んでいるわけではないからです。そんな現代に生きる人々の閉塞感を、彦一は表現しています。そして「ああ、みんな同じように苦しみながらも生きているんだ」と、心の中がジワジワと温かくなっていく。それが彦一の魅力なのでしょう。
また老人介護の現状にもスポットをあてている本作。このデリケートな問題を扱うにあたってドラマのときからリサーチは念入りにしていたそうですが、映画では、認知症、虐待問題、施設不足という問題にも踏み込んでいます。徹底したリサーチには、協力をした【認知症の人と家族の会・東京支部】のスタッフも「これほど何度も足を運んで調査をし、こちらが伝えたことが作品にきちんと反映されているのは初めてです」と驚いたほど。西谷監督は「知らないことほど、丁寧に描くべき」と語っており、取り上げる問題への真摯な姿勢が、いい作品へと繋がったのでしょう。
西谷監督は、メイン以外のキャスティングも念入りで「うみねこの家」の老人役の役者たちは、何度もオーディションを重ねて選ばれただけに、家族に放り出された老人たちの悲しみや哀れさを生々しく表現しており、胸が痛くなるほどです。また草彅剛の力強いパフォーマンスにリードされ、メインキャストもみんな好演! 土台となる設定や脚本、演出もしっかり練られており、ラストまで緊張感を切らさずに疾走している映画『任侠ヘルパー』。TV局が関係している映画は、映画ファンから認知されにくい面があるけど、これは見応えあり。偏見を持たず、食わず嫌いせずに、ぜひスクリーンで見てください!
(映画ライター=斎藤 香)
『任侠ヘルパー』
2012年11月17日公開
監督:西谷弘
出演:草彅剛、安田成美、夏帆、風間俊介、黒木メイサ(友情出演)、堺正章(特別出演)杉本哲太、宇崎竜童、香川照之、草村礼子ほか
(C)2012フジテレビジョン ジェイ・ドリーム 東宝 WOWOW FNS27社
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